第5章 欲望
ふと、パーカーのポケットから小さく金属が擦れ合う音がした。
『あ……そうだ、せっかくだしアレやって帰ろ。』
カムクラに言いながら、近くのヤシの木を指差す。
この間一緒に回したガチャガチャマシーンだ。
『1回ずつね。』
ポケットに入っていた2枚のうちの1枚をカムクラに渡し、マシーンに近付く。
「好きですね。どうせ出るものの大半はあなたにとって興味のないものでしょうに」
『うーん、でも楽しいよ。なんて言うか……ワクワクするじゃん?。』
そう返し、メダルを投入した。落ちてきたカプセルを拾って開ける。
『ミレニアム問題集かぁ……。』
親しみのない問題が印字されたプリントをペラペラ捲りながら希灯が少し残念そうに呟く。
裏紙くらいしか使い道は感じない。
『イズルくん、未解決問題集いる?。解いたらお金がもらえるんだってさ。この島で解いてもお金は出ないけど……暇潰しにどう?。』
「結構です。暇潰しにもなりません」
言いながらカムクラもメダルを投入し、落ちたカプセルを一瞥もせずにそのまま希灯に手渡す。
『えっ、またくれるの?。ありがとう。中身は……煩悩メガネだ。かけてみよっと。』
希灯がカプセルから青縁のメガネを出して耳にかける。
『自分の煩悩を現実に重ねて見ることができる……らしいね。服が透けるとかじゃないんだ?。』
「効果はどうですか」
『うーん……何も変わりないよ。』
希灯はレンズ越しに辺りを眺める。
『海と砂浜と……君が居るだけ。』
ただの伊達眼鏡かもしれない。
仮想世界なんだから、ちょっとくらい不思議な現象が起きてくれてもいいのに。
『あ……イズルくん、ちょっと笑った?。』
「いいえ」
『そっか?。メガネのせいかもね。』
希灯は少し微笑みながら、メガネを外す。
『……煩悩かぁ。』
首を傾げながらメガネを折り畳み、そのままポケットにしまった。
『じゃあ戻ろっか。午後も頑張ろうね。』
砂浜から出て、一旦着替えるためにホテルまで向かう。
2人の髪から滴り落ちる水滴が、焼けたアスファルトに落ちてはゆっくりと蒸発していった。