第1章 苦悩
吐く息は白く、淡く消えていく。
冬の寒さは体を刺すようで、思わず首元のマフラーを握りしめた。
今日は仕事もなく、久々に学校で授業を受けていた。クラスメイトも仕事との両立を気にかけてくれているが、特に授業に遅れを取っていると感じなかったのが幸いだった。この後は予定も特にないので、事務所に戻る。
「いおりん、また難しい顔してる〜。」
「......元からこういう顔なんですよ。」
チラリと横を見れば、ふにゃりと笑う彼が。
同じ高校生でも、どうしてこうも違うのだろう。
『一織は大人びすぎている』とよく言われるが、一織からしてみれば、『七瀬さんも四葉さんも幼すぎる。』もちろんいい意味で、だが。
自分の感情をそのままさらけ出して、素直に相手に伝えることができる2人。羨ましいと言えば羨ましい。
「そーちゃんが〜」
「王様プリンが〜」
コロコロと変わっていく話題。
彼の話に耳を傾けながら、相槌をうつ。
''大人びた''自分をマネージャーはどう思っているんだろうか。
マネージャーは一体どんな人が好みなのだろうと頭の片隅で考えながら。
交差点の赤信号で立ち止まると、ふいに彼の携帯が鳴った。音からしてメッセージの受信音だろう。
「うぉ〜!!マジか!?」
スマホの画面を確認して嬉しそうな表情だ。
「どうしたんですか??」
「今日の夕飯、みっきーが作ったんだって!!そんで、マネージャーも手伝ったらしい。め〜ちゃ豪華。最高。」
なるほど、彼に見せられた画面を見ると、グループチャットに美味しそうな料理の写真が送られていた。
そっと自分のスマホを確認すると、確かに同じ内容が送られていた。
マナーモードだったからだろう、全然気が付かなかった。
「いおりん!!俺お腹空いた。早く帰ろ〜ぜ。」
「そうですね。兄さんの料理が楽しみです。」
すっかり上機嫌の彼に頷く。
''マネージャーも手伝った''という部分には触れられなかった。
いくら兄と言えども、ほの暗い感情が沸き起こってしまうのを抑えられない。
兄さんと、マネージャーと、
2人が楽しく料理している幻想が、ぐるぐると渦を巻いて消えていく。
「いおりん、青だぜ〜!!」
色を変える信号に再び足を進める。
足早になりつつも彼の話題は尽きなかった。
ただ、自分でも驚くくらいそのほとんどを思い出すことができない。
