第1章 苦悩
アイドルとしては絶対に許されないことだと、自分でもよく分かっている。
それでも、あなたが欲しいと思ってしまう。
「一織さんおはようございます。」
もうマネージャーとしても長い付き合いだと言うのに、ぺこりと律儀にお辞儀をする彼女につい顔が緩みそうになる。
「......おはようございます。本日もよろしくお願いします。」
何気ない挨拶。
彼女から向けられる笑顔がこんなにも愛おしい。反面、当たり前のように他のメンバーにも向けられていて少し複雑な気持ちもある。
事務所の窓を打つ雨の音とメンバーの笑い声が遠くに聞こえる気がした。
「一織さん。一織さん。」
「はい!?なんでしょう。」
彼女の声に我に返る。
一体自分は何を考えていたんだろう。
「大丈夫ですか??最近、お仕事も多かったですし体調とか......。」
自然と近くなる距離に少し胸が高鳴る。
「いえ、少し考え事をしていただけですよ。」
「本当ですか??体調が優れないならすぐに言ってくださいね。」
「お気遣いありがとうございます。」
あくまで、事務的なやり取りを心がける。
そうしないと、そうでないと、私が私でなくなってしまいそうだから。
「え〜!?!?一織が体調不良!?!?」
私とマネージャーとのやり取りを聞いていたのか、七瀬さんがこちらへ駆けてくる。
「一織が!?」
「いおりんが!?」
「一織くんが体調不良だって!?」
七瀬さんの大きな声が他のメンバーにも届いたらしい。伝言ゲームのように伝わっていく様子に思わず苦笑いしてしまう。
あぁこの時間が、この仲間が、何よりも愛おしく苦しい。