第15章 月と袈裟
═3年半前、岩手の山間部═
遠征先の、とある廃屋で、紅海は小さな背中を見た
釘を打ち込む音が、乾いた破裂音のように響く
次の瞬間、歪んだ呪霊の核が穿たれ霧散した
『わ、小さいのにすごっ…しかもまぁ、古くから伝わる様な昔ながらの術式』
思わず本音が漏れる
金槌を振るう迷いのなさ
基礎がしっかりしている
自分の小学生時代を思い出す
祖母は中々、術式を教えてくれなかった
6年間、ひたすら呪力の制御
拳に集中させ、殴る。祓う。それだけ
地味だが確実な修練
目の前の少女は、もう“型”を持っている
少女が振り返った、強い目だ
『ね?この辺の子?』
「見かけない顔…お姉さん、さっきの見えるの?」
警戒と好奇心が半分ずつ
『あ、うん…一応、呪術師だからね』
そう言うと
「そっか」と頷く
呪術の世界の子供は、現実を受け入れるのが早い
『キミは、よく呪霊祓ったりしてるの?
あ、私、流鏑馬紅海って言います。お名前は?』
「釘崎野薔薇。婆ちゃんから教えて貰って
悪さしてる呪霊は祓ったりしてる」
さらりと言う
『えー!?そうなの?私も一緒!
小さい頃からお祖母ちゃんに教えて貰ってた
で、高専に入って呪術師になったの!』
「高専?」
聞き慣れない単語に、野薔薇が食いつく
『そ、東京都立呪術高等専門学校
表向きは普通の学校だけどね、
私達みたいな呪術師になるための学校ってとこかな?』
「それ!東京にあるの?」
一歩、距離が縮まる、彼女の顔が明るくなる
『そうだよ、あと姉妹校で京都にも
今、私は京都校で教師もやってるんだけどね』
少しだけ誇らしく言うと、野薔薇は何か考えている
東京…その響きだけで、少女の視線が遠くを見る
田舎の閉塞感
きっと、彼女も周りの環境に何か感じているのだろう
「…東京、か」
ぽつりと零れた声は、とても静かだった
紅海は、その横顔に自分を重ねる
閉じた世界の外に、同じ“見える者”がいると知った日の事
世界は狭くない…自分にも選べる場所はある
『興味あるなら、目指してみる?』