第14章 甘い蜜とうたた寝
「はぁ…解ったよ! あー、じゃあ、今日は一緒に帰るよ」
唐突に言い切られて、紅海は目を瞬いた
『え、いやいや、悟さん…あなた、すぐそこの、高専宿舎でしょ』
「いや、だから、送ってやるって言ってんの」
『え? 悟が?わたしのアパートまで?』
「そう、アパートまで
だって、僕、紅海の家知らないからさ、
何かあった時にすぐに駆けつけられた方が良いでしょ」
『うーん』
「断られても送ってくからな…お前、変な所、頑固だからなぁ」
軽口のようで、退路を塞ぐ言い方だった
紅海は一度、視線を落とす
悟の時間を奪っていいのか
それより、さっきまで彼の提案をことごとく断ってきた
これを断ったら本当に頑固者だよな…とか
ほんの数秒の沈黙
『…じゃあ、送ってくれる?』
遠慮がちにそう言った紅海の仕草に、五条の心臓が一瞬だけ跳ねた
気づかれないように、わざと大げさに息を吐く
「良いよ! ちょっとは甘えろよ〜、同期のよしみだろ?」
そう言って、ふざけた調子のまま距離を詰める
「ヨーシヨシヨシヨシ」
犬でも撫でるみたいに、遠慮なく頭をわしゃわしゃとかき混ぜて
自分の心を誤魔化す
『ちょ! もー! やめてよ!』
紅海は抵抗しながらも、本気では振り払わない
その様子に、五条は笑う
夕方の空気
並んで歩きながら、紅海は少しだけ肩の力を抜いた
悟が隣にいる…それだけで、無意識に警戒を解いてしまう自分に気づいて、内心で首を振る
だめだ、悟に頼っちゃ…警戒は解いちゃダメ
五条は、紅海の周りを、さりげなく見張る
人混みでは狙わないだろうなと、道のりを確認する
そして、歩調を合わせたまま、唐突に口を開いた。
「家までは付けられてないって、確証ある?」
『うーん…多分……
もし、うちの場所知ってたら、アパートに忍び込んで寝込み襲うとか、ありそうだから…今のところは……』
紅海の声は軽い。
それが、かえって現実味を帯びている。
“今のところ”ね
何かあってから「付けられてました」じゃ遅いんだよ
そう思いながら五条は警戒を強める