第14章 甘い蜜とうたた寝
最初に違和感を覚えたのは、風の流れだった
紅海は人の通りがない路地で一度足を止める
無意識に指先へ呪力を回す
空気が、わずかに重い
ただ、人為的に“寄せられた”気配
「またか…」
独り言は小さく、吐息に紛れた
最近、多い…呪霊だけじゃない
人の形をした厄介な手合いが増えている
背後から、男の声…
「流鏑馬紅海さん、ですよね」
振り向くより早く、紅海は半歩飛び退く
次の瞬間、男の足元の影が不自然に伸びる
影を踏んだ瞬間、拘束術式が発動する仕組みだ
甘い
昔から、何度も食らってきた
紅海は影を“踏まなかった”
正確には、呪力を込めた小石を蹴って
自分の代わりに影と接触させる
術式が空振る
「なっ——」
相手が声を上げる前に、紅海は距離を詰めた
掌底…呪力を薄く、しかし確実に
骨が折れる感触
相手は壁に叩きつけられ、そのまま崩れ落ちた
瞬間、背後から腕を掴もうとした“何か”から、体を沈める動きでかわす
同時に、踵を返し、相手の懐へ潜り込み足払い
『こわっ、何人いるの!?』
外にも術師が数人…呪力の使い方が荒い
焦りと欲が、そのまま術式の粗さになって滲んでいる
「…っ、思ったより、動くヤツだな!」
『よく言われるよ』
軽い声とは裏腹に、紅海の動きは容赦がなかった
呪力を込めた回し蹴りから低い位置から地面をなぞり
小石に呪力を込めて散弾銃のように放つ
衝撃音
呪詛師の体が弾かれ、地面に転がった
殺したくはないので加減をする
紅海は距離を取り、息を整えた
『…目的は何?』
答えはない
男は歯を食いしばり、視線を逸らす
違和感を感じていると、向こうの横断歩道の信号が青になったのだろう
こちらの道にも人の気配が近づいて来る、紅海は一瞬、そちらを気にすると、術師達は隙をつき逃げていた
紅海は深追いはせず気配が消えるのを待った
自分は無事だし、他の被害も出ていない
今回、呪霊ではなかったし…
ただ、こう言った突発的な事があれば報告は義務だ
電話で軽く報告をする事にした
『あ、流鏑馬です…』
蜜に寄る虫が、また増え始めている
そしてその蜜は、紅海自身だ