第11章 目覚めと目覚め
五分後
引き戸が開いて新鮮な空気が入る
「はいは~い、お誕生日の主役はどこかな~?」
いつもの目隠しに、ラフな格好、黒いコートを羽織っている
そして視線だけが一直線に紅海を見つける
硝子がカウンターを顎で示す
「あっち」
紅海は七海の服を握って、半分意識が落ちかけていた
頬は上気し、瞼は重そうに瞬く
指先がテーブルの縁をなぞっては止まり動く…意味のない反復
五条は近づくと、まず七海を見た
「送るって話、ありがとね」
「…いえ」
七海は目線だけ五条に向けた
これ以上、何か言葉にすると一方的に喧嘩を吹っ掛ける気がした
五条はしゃがみ込み、紅海と目線を合わせ
紅海の、ぐしゃぐしゃな前髪を整えてやった
「紅海」
『ん…?』
呼ばれて、ゆっくり焦点を結ぶ
『…悟?』
「そ…迎えに来た」
紅海は数秒、じっと見つめてから、ふにゃっと笑った
『…遅い』
「ジャスト五分だよ?」
『それでも…おそ…ぃ』
そのまま額を五条の肩に預け完全に無防備だ
五条は一瞬だけ固まってから、溜息まじりに腕を回した
「飲みすぎ…大人なんだからさ、自分で調整しなよ?」
『っは!酔ってないよ…』
意識を保とうとして何とか顔を上げる
『こないだ、酔っ払った悟に言われたくな〜い!』
「ノーコメント…あれは不可抗力だから…っしょっと」
身長差が有るため紅海の片方の肩支えて自分に寄りかからせる
硝子はその様子を見て
これで自覚してないとかないよねぇ…
随分と恥ずかしがり?ツンデレ?
いや、プライドが高くてあまのじゃく?
「じゃ、任せた」
「はいよ…任された
紅海、歩ける?」
『たぶん…』
紅海が動こうとして、身体がふらつく
次の瞬間、五条の腕が支えていた
「ほら、こっち」
紅海は無意識に、五条のコートの裾を掴んだ
それを見て、七海は視線を伏せる
硝子は、ため息にも似た呼吸を一つ
「今日は悪かったね、ありがと」
何故か五条が紅海の代弁をする
「流鏑馬さん…やっぱり」送っていこうかと言いたい
が、『ありがとね、七海、硝子…またね』
か細い声で答えて、紅海が出ていく
店を出る直前、硝子がぽつりと言う
「悟…信用してる」
五条は一瞬だけ足を止め肩越しに笑った
「解ってるって、じゃ、お先」