第37章 都と帳
══閑話══
京都の山中…月明かりに照らされた人影
羂索は静かに街を見下ろしていた
昼間の喧騒は消え、灯だけが盆地に散っている
背後で土を踏む音がした
「終わったようだな…」
漏瑚だった
羂索は振り返らない
「そうだね」
漏瑚は鼻を鳴らす
「呪詛師の悪行を止め、やつらは成功体験を得る…
だが、もう一つの目的…結局、あの巫女は現れなかったではないか」
羂索は小さく笑った
「もう少し暴れてくれても良かったんだけどね」
その返事に、漏瑚も苦く笑う
「期待外れか?」
「いや」
羂索は静かに首を振る
「十分だよ」
「十分?」
「彼女の術式が格段と向上しただろう?」
夜風が木々を揺らす
「他人の呪力へ干渉する力……想像以上だ」
漏瑚は腕を組む
「それほど欲しい力か?」
「欲しいとも」
羂索は迷いなく答えた
「真人は人の魂を書き換えられる
だが、それだけでは終わらない」
空を見上げ…
「術師として目覚めた者たちの呪力は、不安定で個体差が大きい」
そして街の灯を指先でなぞるように見つめる
「呪力を定着させ、安定させる
そして、より高い段階へ押し上げる…
そのためには、彼女の力が最も効率的だ」
漏瑚は僅かに表情を変える
「だから、巫女を引きずり出そうとしたのか」
「そう……だが失敗した…いや」
羂索はまた笑った
「あと少しだった…彼女は限界まで追い詰められた
もう一押しあれば、出てきてもおかしくなかった」
静かな声だった
悔しさも焦りもない
事実だけを積み重ねるような口調
「今回は、良い実験だったよ」
漏瑚は、なにも言わず夜空を見上げる
「次は、もちろん、条件を変える」
羂索は淡々と答えた
「人は同じ失敗を繰り返さない…だから私は、その学習ごと利用する」
その笑みは穏やかだった
「そして、次は、もっと深く…彼女が出てくる様に
急ぐ必要はない…千年待った…あと少し待つくらい、誤差だからね」
夜風が吹き抜ける
その笑みだけが、静かに闇へ溶けていった