第38章 お粥と意地
══閑話══
新幹線は一定のリズムでレールを刻み
窓の外では夕暮れの街並みが後ろへ流れていく
車内は静かだった
紅海は窓にもたれたまま眠っている
細い肩が規則正しく上下し、長い睫毛が頬に影を落としていた
五条はその横顔をぼんやり眺め、それから窓へ視線を移す
不意に、思い出した熱を出した日
「先月、私も風邪引いてね、紅海が作ってくれた」
と聞いた時…あれは、結構ショックだった
自分だけじゃなかった
それだけのことなのに、胸の奥が、妙にざわついた
傑に「ショックだったのか?」と笑われて、全力で否定したことまで思い出す
「……ガキだったな」
小さく笑う
いや、今思えば
あの時にはもう、答えは出ていたのかもしれない
誰にでも優しい紅海が、自分だけを特別扱いしていない
そんな当たり前のことが、少しだけ面白くなかった
その感情に名前を付けられなかっただけだ
車体が揺れる
紅海の身体が小さく傾いて、
そのまま肩がこちらへ寄り、頭がそっと五条の肩へ持たれる
起こさないように、五条は動かない
眠っている紅海は、昔と何も変わらない
任務が終われば安心して眠るところも、人を放っておけないところも
あの日、自分の部屋で「ちゃんと暖かくして寝るんだよ」と言って笑った顔も、そのままだ
「……世話焼き」
誰にも聞こえないくらい小さく呟く
窓に映る自分は、少しだけ口元が緩んでいた
高専時代は、もう戻らない
夏油もいて、硝子もいて、四人で笑っていた、何気ない日々
あの頃は、それがずっと続くものだと思っていた
五条は眠る紅海の頭が揺れないよう、ほんの少しだけ肩を寄せる
窓の外では、茜色だった空が少しずつ藍色へ溶け始めていた