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【呪術】もしも、希望の隣に立てたなら。【廻戦】

第37章 都と帳


翌日

昨日までの、身体の芯を焼くような熱はない
息を吸う…肺は重くない
呪力も、昨夜よりずっと素直に巡っている

「…熱…下がった」
小さく呟き、ベッドから足を下ろす
立ち上がっても視界は揺れず、一歩、二歩と歩いてみても足取りはしっかりしていた

「…よかった」

昨夜まで部屋の片隅でパソコンを開いていた遊佐の姿はない
テーブルの上には、使い終えたマグカップだけが残されている

きっと、自分が眠っている間に帰ったんだ
その視線が、ベッド脇の椅子へ移る

丁寧に畳まれた着替え
見覚えのあるトートバック

思わず口元が緩む
「…硝子だ」
あれから、また訪れて、必要な物だけを置いて帰ったのだろう


ちゃんと困らないようにしてくれる
昔から、そういう人だった
「ありがとう」

誰もいない部屋で、小さく呟く
過保護にされるのは、あまり得意じゃない
心配され過ぎると、申し訳なくなるから

……でも
本当に苦しい時だけは
何も言わなくても隣にいてくれる誰かがいることは、すごく嬉しい

浴室へ向かり、シャワーの栓をひねる
汗を流し、髪を洗い、何日ぶりかのような心地よさに息をついた

鏡に映る自分は少しやつれて見えたが、顔色は昨日よりずっと良い
ジャケットへ袖を通し、髪を結ぶ

胸の奥で、呪力がゆっくりと巡る感覚があった
回復している

ふと、胸に浮かぶのは一つだけだった

―保田さん
あの人は、今
家入硝子は助けられないと言っていた
術式で書き換えられた身体は、反転術式でも元には戻せない

彼は、人を傷付け事件を起こした
それは紛れもない事実だ
許されることではない

だけど
誰かに命令され、誰かに利用されたのではないだろか
そんな違和感が最後まで消えなかった

もちろん、それだけで罪は消えない
事情があれば、人を傷付けてもいい理由にはならない

それでも
「…理由くらいは知りたい」

誰にも聞こえないほど小さく呟く
その時だった

コンコン

隣の部屋へ続く扉から、小さなノックが響く
返事をするより少し早く、聞き慣れた声がした

「紅海…」
五条だ

眠気の抜け切っていない、少し掠れた声
「起きてる?」

紅海は扉へ視線を向け、小さく息をつく
その声を聞いただけで、不思議と昨日まで張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ
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