第37章 都と帳
五条が堪えきれず笑う
「ははっ…笑える…硝子、それ本人たちの前でも言ってみな?」
「まぁ、言う時もあるな」
硝子は表情一つ変えない
「うっわー!」
部屋に小さく笑いが広がる
五条はその空気のまま、硝子へ視線を向けた
「誰呼ぼうか?」
スマホを取り出して、指先で連絡先をスクロールし始める
「規程内の術師を考えれば良い…
規定外だと後から上から突っ込まれた時、大変だから」
硝子はそこで言葉を切る
監視対象である紅海を、安全に管理するための判断だった
家入硝子がホテルを後にして、一時間ほどが過ぎていた
京都校では、まだ事件の後始末が続いている
負傷者の治療、現場検証、報告書の作成
昨夜の事件は、まだ終わっていなかった
部屋の窓際で、五条はスマホを耳に当てる
「悪い、由布湯…」
短い説明だけだった
受話器の向こうは少し黙り
『……分かりました…行きます』
それだけ返して通話は切れた
約一時間後
コンコン、とノックが響く
扉を開けると、大きな鞄を肩に掛けた遊佐が立っていた
「お疲れ様です」
「助かるよ」
部屋へ入った遊佐は、念の為に入口付近、窓、隣室へ続く扉
一つずつ確かめてから、ようやく紅海のベッドへ目を向ける
「……紅海ちゃん」
その顔を見た瞬間、胸の奥の緊張が少しだけほどけた
昨日より、ずっと顔色がいい
「昨日より顔色ええやん」
思わず漏れた言葉に、紅海が小さく笑う
「まだ、ちょっとふらふらするけどね」
「それでもや」
遊佐は鞄を机へ置き、ノートパソコンと書類を取り出す
「遊佐くんも仕事あるのに……ごめんね」
「何言うてんの」
パソコンを開きながら肩をすくめる
「昨日から報告書だらけや」
電源を入れ、画面が立ち上がる
「ここやと静かやし、仕事が進むわ」
冗談めかした声だった
紅海が気を遣わないように
それが分かるからこそ、紅海はそれ以上何も言えなかった
五条はその様子を見届けてから遊佐を見る
「由布湯」
「はい」
「何かあったら、すぐ起こして」
今までの軽い調子ではない
遊佐もすぐに頷く
「分かりました」
数秒だけ、五条は紅海を見る
熱は下がったし呼吸も落ち着いている
遊佐も来た…ようやく条件がそろった