第37章 都と帳
翌朝
窓から差し込む柔らかな光に、紅海はゆっくりと目を開けた
身体はまだ少し重い…熱も少し残っている
けれど
……あれ?
思ったより動ける
いつも領域展開した翌日なら、起き上がることすら出来ない状態が多い
それに比べれば、今日はずっと楽だった
身体を起こした、その時
コンコン
控えめなノックが響く
「起きてる?」
聞き慣れた声だった
五条が代わりに扉を開く
「硝子」
「おはよ」
家入硝子は脱いだ白衣を腕に掛けている
「昨日の夜、京都着いた…そのまま重傷患者の治療」
淡々とした口調
感情はほとんど乗っていない
「結論から言う…呪詛師の右腕は戻らなかった」
紅海の表情が固まる
硝子は続けた
「身体の構造そのものを書き換えられてた…反転術式じゃ戻せない」
静かな声だった
いくら治療をしても元々のからだの構造がそうであれば、その様にしか戻らない
「その上、右腕だけ自我と関係なく動き始めた…放置は危険で、切断するしかなかった」
部屋が静まり返る
紅海は布団の上で拳を握った
『……そう、なんだ』
掠れた声だった
『私が……もっと早く領域展開してたら…保田さんの腕も……』
「違う」
五条が短く遮る
紅海は顔を上げる
「そこで止め…全部、自分のせいにしない」
『でも……』
「結果論でしょ?」
五条は静かに続ける
「領域を張るのが一分早かったら助かったかもしれない
逆に、一分早かったせいで紅海が倒れてたかもしれない
そんな『かもしれない』まで背負う必要はない」
五条は紅海を見つめた
「助かった命がある…それで十分だよ?」
紅海は言葉を失う
硝子も小さく頷いた。
「五条の言う通り…術師は全部救えない…
それを毎回抱え込んでたら、そのうち自分が壊れる」
硝子は紅海の額へ手を当てる。
「熱は下がり始めてる…でも今日は安静」
視線だけ五条へ向ける
「あと、五条…」
「ん?」
硝子は眠そうな目で見つめる
「お前も、ちゃんと寝てないだろ」
五条は少し笑う
「まぁね、ここ普通のホテルだったし」
京都高専で泊まれば、結界はある
それでも頼らなかった…
京都側に内通者がいる可能性を、五条は切り捨てていなかったからだ