第37章 都と帳
遊佐も静かに笑う
「せやな…誰かに迷惑掛けるくらいやったら、自分が我慢する子やし」
「だよね~、そこが良いところでも有り、心配でもあるところだよなぁ」
五条は天井を見上げ…少し考える
そして笑みが少しだけ消えた
「由布湯…」
「はい?」
「今回の件、どう思う?」
遊佐は顔を上げる
「今回って……清水寺のことです?」
「うん」
五条はテーブルへ肘をつき、組んだ指へ顎を乗せた
「何か引っ掛かる…紅海が京都へ来ること
それ自体が、最初から組み込まれてた気がする」
遊佐の動きが止まる
「いや……僕ちゃいますよ?」
思わず身を乗り出す
「東京へ応援要請出しましたけど、紅海ちゃんを希望したわけやないですし…むしろ、紅海ちゃんは来られへんと思てた――」
「ぶっ」
五条が堪えきれず笑った
「違う違う、そこ疑ってない
お前が紅海裏切らない事くらい分かってる」
遊佐は安堵と気恥ずかしさで肩の力を抜く
「……紛らわしい言い方せんといてください」
「ごめん、ごめん」
そう言いながらも、五条の目は笑っていなかった
「もっと奥…僕らがまだ見えてないところ…そこに誰かいる」
部屋の空気が静かに張る
「今回の帳も、気持ち悪い思惑感じるしさ」
遊佐は黙って聞いていた
五条は続ける
「非術師を襲うだけなら、もっと効率のいいやり方はいくらでもあったでしょ…」
遊佐の表情が硬くなる
「……紅海ちゃんが、狙いやったと?」
五条はゆっくり頷いた
「多分…半分はそれ…」
人差し指を立てる
「狙われてるのは紅海の中に沈んでる――巫女の魂…」
その言葉だけが、静かなホテルの一室に重く落ちた
遊佐は無意識に、隣室へ続く扉を見る
「また、あの巫女を起こそうとしとるっちゅうこと?」
その向こうでは
何も知らない紅海が、静かな寝息を立てて眠っていた