第37章 都と帳
その時だった
外が少し騒がしくなる
数人の足音
テントの入口越しに、聞き覚えのある声が響いた
「あぁ~、召集掛かったさかい来てみたら、もう終わっとるやないか」
ゆっくり歩いてくる男
禪院直哉だった
後ろには禪院家の術師が数名続いている
「わざわざ呼ばんでも良かったんちゃう?」
口元だけが笑っていた
遊佐が一歩前へ出る
わざと遅れて来たくせに
真打ち登場のつもりやったんやろ…
せやのに、事件はもう収束…
ほんまは、悔しいんちゃうか
心の中だけで毒づく
表情は崩さない
穏やかに一礼する
「禪院家の皆さん、お忙しいところ、お越しいただいてありがとうございます」
直哉は鼻で笑う
「礼なんか要らんわ、無駄足やった言うてるだけや」
遊佐も笑みを崩さない
「いやぁ、ほんま申し訳ない思てます
東京からも応援を呼んでしもたもんですから
京都側としても、禪院家の皆さんがお力添えくださった方が、現場も締まる思うてたんですけど」
その言葉は丁寧だった
だが、絶妙に力を逃がしている
「結果的に、皆さんのお手を煩わせる前に収束してしもて
そこは、こちら側の判断ミスいうことで、ご容赦ください」
直哉は細い目を遊佐へ向ける
数秒の沈黙が流れる
「……口だけはよう回るな…補助監督」
遊佐は穏やかに笑った
「これだけしか、取り柄がないんですわ」
その一言だけ返した
直哉は小さく鼻を鳴らし、医療テントの前を通り過ぎようとした直哉の足が、不意に止まった
視線の先…簡易テントの中、パイプ椅子へ腰掛ける女… 紅海だ
……また、アイツか…
大きな任務になるたび、妙に見掛ける
最近、見んようなったと思ったら…
女のくせに
そんな言葉が頭を過る
その時、 紅海がふと顔を上げて視線が合った
一瞬だけきょとんとしたあと、 紅海はいつものように口元を緩めた
へにゃっとした、力の抜ける笑顔
『こんにちは』
小さく会釈まで添える
直哉の眉がぴくりと動いた
「何か俺に文句でもあるん?」
『え?』
「今、笑ったやろ?」
『えぇっ!?』
紅海は慌てて首を横へ振り、ゆっくり立ち上がる
『違います、違います!その……友好の印っていうか…人類みな兄弟、みたいな……?』