第37章 都と帳
紅海はそれを見届けると、ふらつく足取りで境内を後にした
石段をゆっくりと下り、参道へ出る
土産物屋の軒先…
店の外に置かれた木製のベンチへ腰を下ろすと、小さく息を吐いた
秋風が火照った頬を撫でていく
『……疲れたぁ』
誰へ言うでもない呟きだった
目を閉じる
少しだけ静かな時間が流れる
やがて、足音が近付いてきた
「……ここやった」
聞き慣れた京都弁
紅海が顔を上げる
『あ…遊佐くん』
遊佐は少し息を切らしながら立っていた
ネクタイは少し緩み、額には汗が浮かんでいる
「 紅海ちゃん、大丈夫か?」
『うん』
小さく笑う
『遊佐くんこそ、現場、まだ大変だったでしょ?』
遊佐は肩を竦めた
「まぁ、まだ完全には終わっとらんけど
ひとまず落ち着いてきたから」
そう言って、 紅海の隣へ少しだけ間を空けて腰を下ろす
昔から変わらない距離…
「こっちの処理も、後輩に任せられるようになったし
せやから 紅海ちゃんの様子、見に来た。」
紅海は照れくさそうに笑う
『あはは……ありがと…後輩が育ってて何よりだね』
しばらく二人とも何も話さなかった
下の方で救急車がゆっくり通り過ぎる
遠くでは、補助監督たちがまだ慌ただしく動いている
その景色を眺めながら、 紅海がぽつりと口を開いた
『今日はね、初めてなことばっかりだった』
遊佐は黙って聞いている
『領域展開の使い方も術式の応用も…
人に直接、あんなふうに呪力を流したのも初めて』
自分の掌を見る
まだ少し震えていた
『正解だったかは分からないけど…少しだけ自分の術式の幅が広がった気がする』
遊佐は小さく笑う
「それ… 紅海ちゃんらしいわ」
『え?』
「普通やったら、『危なかった』とか『もうやりたない』とか言う場面やで?」
「ほんま、 紅海ちゃんは呪術師やなぁ…」
紅海は困ったように笑った
『そうかなぁ』
「そうやで」
遊佐は真っ直ぐ前を向いたまま続ける
「せやから、一級術師なんやろな」
その言葉に、 紅海は少しだけ目を丸くした
照れたように頬を掻く
『そんな、大したことじゃないよ』