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【呪術】もしも、希望の隣に立てたなら。【廻戦】

第37章 都と帳


『……維持、って…』
遊佐との通信が切れる
紅海は保田を支えたまま、小さく息を吐いた

領域は解除された
慈掌緩枷の守護も消えている
それでも保田の身体は、まだ崩れていない

ほんのわずかに残った、自分の呪力が身体を包んでいる
『これを……維持すれば?』

震える指先を見つめる
私の術式は、呪力を宿して操作する術式

呪具、石、紙、水
今までは、そうやって無機物へ呪力をこめてきた

なら
『……人にも…』

答えは分からない
そんな使い方は、一度も試したことがない

領域展開を終えた直後だ
呪力は底をつきかけている
練ろうとしても、思うようにまとまらない

それでも
『……やるしか、ない』
紅海はそっと保田の肩へ手を添えた
暴れないように…壊さないように

ほんの糸一本を紡ぐような感覚で、自分の呪力を流し込む

「……っ」
呪力が揺れる

強すぎれば弾かれる
弱すぎれば途切れる

水面へ雫を落とすような繊細さで、少しずつ、少しずつ調整していく
『お願い……』

保田の身体を包んでいた呪力が、わずかに安定する
止まりかけていた呼吸が、小さく続いた

『良かった……』
安堵した、その瞬間
視界が大きく揺れた

意識を失いそうになる

だめ…ここで切らしたら
歯を食いしばる

保田を包む呪力だけは途切れさせない
それだけを考える

時間の感覚は、もうなかった
どれほど経ったのかも分からない
遠くから慌ただしい足音が近づいてくる

「流鏑馬先生!」
医療班が境内へ駆け込んできた
その頃には、 紅海の頬から血の気は失せていた

保田へ触れた両手は小刻みに震え、焦点の合いにくくなった瞳が辛うじて相手を見つめている

それでも
保田を包む呪力だけは、一度も途切れることなく静かに流れ続けていた
「流鏑馬先生、こちらへ」

医療班が保田を担架へ乗せる
その横で、 紅海も声を掛けられた

「先生も治療を――」
『だいじょ……ぶです』

掠れた声だった
『私は……自分で歩けますから』

一度息を整え、小さく微笑む
『保田さんを……お願いします』

医療班は一瞬だけ迷ったものの、すぐに頷いた
「分かりました…保田さんを優先します」

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