第8章 前日と仕度
「気ぃ遣える男だねぇ」
五条は、にこやかだったが、
胸の奥が、きしりと音を立てた気がした
理由は解らないし解りたくもない
『私、全然、気にしないのにね
でも、そうやって考えてくれるのは、ありがたいなって』
「…ふーん」
なんか、気に入らない…
五条は軽く手を振る
「ま、誕生日なんて年に一回だし?
祝ってもらえるなら、良い事じゃん!良かった良かった」
うんうんと、頷きながら
自分で言っていて、どこか空虚だ
「僕なんて、誕生日来る度に“また歳取ったな~”って思うだけだもん」
『悟は、毎年派手に祝われてるイメージ』
「まぁね」
『って言うか、悟は歳取らないイメージ』
「完璧な僕でも、人間だからね?歳だけは取ってるんだよ残念な事に」
『中身はあんまし変わってなさそうだけど、ふふふっ』
「いや、それ、そのまま 紅海さんに、お返ししますけど~っ?」
ぷっ…あはは!2人で笑い合う
紅海との会話は愉しいのに
五条の胸の奥で、小さく確実に焦りが芽を出している
『でさ、東京にわざわざ来てくれるから、どこか観光とか連れて行った方がいいよね?』
「さぁ?案外、 紅海に会うだけで満足するんじゃない?」
『いやいや、私、観光地じゃないからね?』
「 紅海が解んないなら、僕も一緒に付いてってあげても良いけどね?」
グッ!と、親指を自分に向ける五条
何に焦っているんだ―分からない
分からないから、余計に不快だった
『確かに、私、東京観光とか解んないからなぁ…
小学校の時に遠足で浅草に行ったけど』
「うーん、寺しか無い京都の人に浅草紹介してもね~」
*あくまで、個人的な見解です。各方面にお詫びします。
『じゃあ、悟、ついてきて貰える?』
えっ…良いんだ?と、五条は拍子抜けする
しかし、その男に会って良いものか不安になった
紅海から視線を逸らし歩き出す
「まぁ、考えとくよ…
遊佐くん?がビックリしてもイケないしね
じゃぁ、僕、そろそろ、次の会議~」
『えっ、あ、ゴメンね、行ってらっしゃい』
背中越しに聞こえた、 紅海の声は、いつも通り優しい
五条は歩きながら、心の奥に蓋をする
誰が彼女の誕生日を祝おうが、
自分には関係ない…関係ない、はずだ
なのに腹の立つ事に
何故か、胸の内がざわついてくる