第7章 後輩と先輩
好み焼き屋
鉄板の上で油が弾き煙が立ち上る
『じゃあ、私が焼くね!』
紅海は慣れた手つきで生地を広げる
「流鏑馬サン、意外と家庭的なんですね」
猪野が感心したように言う
『えへへ、ありがと、京都で美味しい所見つけて、良く行ってたんだぁ』
「猪野君、“意外”というのは失礼ですよ」
七海は、ヘラを配りつつ言う
「あ、すみません!」
『いいよいいよ、意外ってよく言われるし』
猪野は慌てて笑うが、紅海は気にしていない様子だ
ソースと鰹節をかけて出来上がり
『なかなか一緒に行く人が見つからなくて…はい、召し上がれ~』
「え?そうなんですか?そうだ、 流鏑馬サン」
猪野が箸を持ったまま身を乗り出す
「今度、飲みに行きましょうよ! 絶対楽しいっすよ!」
『え、誘ってくれるの? 嬉しい、行く行く!』
即答
七海の眉が、ほんのわずかに動く
「… 流鏑馬さん、誰でも誘いに乗るのは良くないかと」
『え? 誰でもって訳じゃないよ?
七海に誘われたら、私、飲みに行くでしょ?』
そうか、行ってくれるのかと言う安堵感
「私は、誘った事は一度もありませんよ」
『えー、じゃ誘ってよ~』
紅海は頬を少し膨らませる
冗談めいた仕草に悪気はない
そういう所ですよ…
七海は、箸を持つ手に無意識に力が入る
『まだ、こっちに来て日も浅いしさ』
紅海は鉄板を見ながら続けた
『知らない人も多いし、色んな人と交流したいんだよ』
とても素直で前向きな理由
「じゃあさ」
猪野が勢いづく
「俺、友達とか紹介しますよ!彼氏とかいます?
いないなら男友達とかで良かったら…」
「猪野君」
七海の声が、はっきりと空気を切った
猪野は、はっとして口を噤む
…しまった!という表情
『七海?』
紅海は、きょとんと七海を見る
七海は一度、息を整えてから言った
「 流鏑馬さんは、私より一つ上です」
淡々と事実だけを述べる
「君の友人を紹介するにしても、年が離れすぎています
流鏑馬さんに対しても、失礼でしょう」
猪野が目を見開く
「 流鏑馬サン、七海サンより上なんですか!?
てっきり、俺より三つ四つ上くらいかと…」
『ちょ、七海!年の話、出さないでよ! 恥ずかしいから!』
「失礼しました…」
七海は気まずそうに目をそらす