第7章 後輩と先輩
夕日が落ちる頃
帳が下ろされたのは、郊外の工場跡だった
夜の空気に、古い鉄と湿気の混じった匂いが漂う
「窓からの報告では、複数の呪霊を見かけたそうですね
おそらく、2級レベルとか何とか…」
猪野が周囲を見回しながら言う
「油断は禁物です…油断した途端、足元を救われる」
七海は淡々と答えつつ、視線を前にやった
紅海は、すでに数歩前に出ている
軽く地面を蹴り、呪力を足に乗せる、戦闘前の、癖のような動作
『七海、猪野くん…私、前衛で後方は任せたからね?』
その一言が、七海の胸の奥を曇らせる
流鏑馬さんが前衛…か
合理的だ、身のこなしの軽い彼女が前に出るのは、判断として正しい
ただ…彼女は無理をする、他人の為なら尚更
「 流鏑馬さん、無理はしないでください」
声はいつも通り、抑揚もない
『大丈夫だよ。七海が後ろを守ってくれるんでしょ?』
軽く笑って、 紅海は走り出した
帳の中、大量の呪霊が動き出す
紅海が数体を引きつけ、跳躍し
呪力を込めた蹴りが、空気を裂く
「すげぇ…初見、この人大丈夫か?って思ったんですけど…
あんなフットワーク軽く祓うなんて…」
猪野が小声で言った
「ええ」
七海は目を離さない
「彼女は、10代の時に、まだ素人と言える身で、"1級含む100を超える呪霊を数時間で祓った記録"を非公式では有れど持ってますからね…その記録を破った呪術師は未だにいない(*どこかの呪術ジャーナルより抜粋)」
「ですが、だからと言って、彼女の判断は傲ることなく冷静です。無闇に深追いしない」
猪野は後方からの呪霊に攻撃を仕掛けながら話を続ける
「七海サンが、そこまで買ってる呪術師がいたなんて、初耳ですよ」
「彼女は、すぐに京都に配属されましたからね…知らないのも無理はありません」
布を巻いた鉈で七海も祓い続ける
「なるほど…っあ!」
2体の呪霊が、猪野の横をすり抜け死角から 紅海に迫る
七海は即座に踏み込んだ。
「 流鏑馬さん、下がってください」
七三分けのラインが、呪霊の身体を正確に断つ。
十劃呪法
強制的に弱点となった一点にダメージを与える