第6章 烏龍茶と公園
逃げ場のない距離
五条は一瞬だけ眉を動かした
伊地知の顔が脳裏をよぎる
(伊地知のやつ余計なことしやがって)
そもそも、今までだって、来るもの拒まず去るもの追わずで
別に相手が自分の事を嫌いだろうが好きだろうがお構いなしだったじゃないか
どうでも良い相手には適当に軽くあしらえば良い
なら、そうすれば良いんじゃないか?
いや、良くない、良くないから、こんなに気まずいって思うし
彼女を泣かせたくないって思う…
五条の胸の奥に、ほんの少しだけ、覚悟が生まれる
紅海は、沈黙が続くと死にそうだったので、大きく息を吸った
『…伊地知に、聞いたの』
暖かそうなコートを脱いで椅子に掛けて
五条の前に座りながら、視線を合わせないまま言う
『悟が、ちょっと元気なさそうだからって。だから…来た』
紅海が、五条のおかわり分の烏龍茶と、自分の緑茶を頼む
五条は沈黙を続ける
言葉にしようとすると、喉の奥で引っかかる…本当は泣かせた事を謝りたい
でも、変なところでプライドが邪魔をする
紅海の前だと、どうしても素直になるのが遅れる
その沈黙を破ったのは、 紅海だった
『…ごめんね、今日の事。私が悪かった。悟が嫌な思いするって、ちゃんと考えられてなかった』
しまった、先に謝られてしまった
五条は、新たに持って来てくれた烏龍茶を店員から直で受け取り
何も考えないまま一気に飲み干し覚悟を決める
「悪かったよ、僕の方こそ。言い方が意地悪かった」
紅海は、驚いたように目を瞬かせた
「後、別に、泣かせるつもりなかったし…本当は……」
そこまで言った瞬間
視界が、ぐるんと回った
「…あ?」
五条は、思わずテーブルに手をつく
紅海が、慌てて身を乗り出す
『え、悟?ちょっ大丈夫?どしたの?』
紅海は、もしかして…と、五条が飲んだジョッキを手に取り、鼻を近づける。
ほんの微かに―アルコールの匂い
『…あ、これ、多分、烏龍ハイ?』
「え……マジ?…あー……」
五条は、しまったと手のひらを額に当てる
『悟、大丈夫?ほら昔、お酒で…失敗した事有ったよね』
「う? んー……ま、たしょーは、だいじょ……ぶ」
『全然、だいじょばないよ、それ』
紅海は即座に立ち上がった。
まだ五条が歩けるうちに、店を出た方がいい