第6章 烏龍茶と公園
居酒屋。五条は烏龍茶を前に口数が少ない
「あのぉ…私、何か、しでかしました?」
「別に?」
暫しの沈黙の後、五条は、徐に話し出す
「僕の話じゃないんだけどさ…
友達が地雷発言されて怒ったらしくて、でも逆に地雷発言した相手を泣かせたらしくて困惑…みたいな?」
「はあ…?」
「まぁ、僕の友達は、振り返ってみれば自分の事思ってやってくれてる事だって気づいた訳だけど、ひっこみも付かないし顔も会わせづらいらしい」
曖昧な「友達の話」を続けている
伊地知は、黙って聞いていたが、もう気付いている
話の内容、タイミング、今日泣いていた 紅海と校内で、すれ違った
(これ、 流鏑馬さんとの話だ)
でも、それを指摘するほど伊地知は無粋じゃない
「自分の話じゃない」と言うなら、それを尊重する
「どう思う?」と、質問されれば
「そうですね…
その“友達”が、相手を大切に思っているなら
そのまま放っておくのは、たぶん一番よくないですね」
と、伊地知は言葉を選びながら答える
五条は、何も言わない
伊地知は、そっとスマホを取り出し五条から見えない角度で、操作する
相手は、 流鏑馬 紅海
【伊地知:今、お時間ありますか?五条さんと飲んでいます
もし可能でしたら、少し顔を出してもらえたら助かります
無理でしたら大丈夫です】
<送信>
伊地知は、何事もなかったようにスマホを伏せて遠慮がちに言う
「もし、その友達が、"お相手が落ち込んでる"と気にしているなら
気まずくても、会って話した方がいいと思いますよ」
「伊地知って、たまに核心突くよね」
「そうですか?」
伊地知は、軽く笑った
暫くすると店の入り口が静かに開く
『イッチー?』聞き慣れた声がした
紅海だ――反射的に顔を上げる五条
彼の視線は迷って、結局、烏龍茶に落ち着く
伊地知の奥の五条を見て、 紅海は息を呑む
伊地知は立ち上がり、軽く頭を下げた
「急にすみません。ちょうど、 流鏑馬さんが、近くにいらっしゃると聞いたので」
完全に嘘ではないし、真実でもない
言葉がでない五条…
伊地知は、わざとらしく咳払いをして
「あ、そうだ、僕、明日、必要な書類を忘れてきてしまったぁ」
迫真の演技?
「これ、お代です。今日はお誘いありがとうございました」
確信犯は店を後にした