第5章 着信と喧嘩
医務室の扉を、控えめにノックする
『硝子、いる?』
「どうぞ?」
紅海は消毒液の匂いが微かにするベッドに腰を下ろし天井を仰いだ
『やってしまったー』
「何を?」
『人前で泣いた。しかも授業中』
硝子はカルテから視線を紅海に向ける
確かに目元が赤くて腫れぼったい
「悟?」
紅海はむくっと起き上がる
『何で解ったの!?』
「逆に、悟以外で泣いた事あった?」
硝子の一言に暫く沈黙してから、ぽつりと話し始める
『おばあちゃんの修行もさ、正直めちゃくちゃ厳しかったし
任務で辛いことだって、いっぱいあったよ?でも…泣かなかった
なのに、悟の前だと…いつも泣いてる気がする』
「知ってる」
硝子はあっさり言った
「高専の頃から、悟に泣かされるの何回目?」
『ち、違うよ!今回は…悟のせいじゃない
私が私に泣かされたんだよ』
「何それ」
『傑の話し…解ってたのに言っちゃった
悪気がないのが一番酷いって…こういう事だよね』
紅海は両手で顔を隠す
『悟に、酷い事言った』
「ねえ 紅海」
椅子に座り真正面から見る
「何に後悔してる?
悟に嫌われるとか?生徒に見られたとか?」
『違う…悟を傷つけちゃった…泣いちゃったし、ズルい』
「悟は頭キテるバカだけど、冷静になったら解る人間だ…
…って、 紅海も解ってるだろ?」
硝子は肩をすくめる
「それに、悟の前で泣くのは
紅海が弱いからでも涙を利用してるからでもない」
一拍置く
「悟の前なら安心して泣けるからだろ?」
紅海は、はっとする
悟なら受け入れてくれるかもって思っている自分が確かにいる
『でも、それ、勝手にもたれ掛かってて、悟に申し訳ない』
「気にすんな、悟は微塵も思ってないでしょ」
硝子はいつもの調子で言って立ち上がる
「 紅海は、他人の事ばっか考えて抱え込む癖があるんだから、
悟にくらい、わがまま言ったって良いんだよ」
『何、それ、悟だけ苦労するやつ?』
フフッと、漸く 紅海が笑顔を見せる
「もちろん、私にだってわがまま言いな?
私もわがまま言うから、Win-Win」
硝子は、両手の人差し指を立て横に振りつつ 紅海を安心させる