第4章 東京とおたべ
新しいアパートへ向かうため、
紅海は両手いっぱいに荷物を抱えて高専を後にした。
紙袋、両肩に掛けたバッグ、そして、さっき渡された書類の入った段ボール
力仕事も慣れているはずなのに、今日は少し重く感じる
その時だった
高専から出てきた一台の車が、ゆっくりと減速し、停車する
「 流鏑馬さん」
呼ばれて振り返ると、運転席の窓が下がり、
見覚えのあるメガネを掛けた顔、軽く手を振っていた
『……え? もしかして』
「私です……伊地知です」
ドアが開き、外に出てきた男を見た瞬間、 紅海の顔がぱっと明るくなる。
『やっぱりイッチー!? 伊地知潔高!?』
思わず荷物を一度地面に置き、
紅海は「へー?」とか「わー?」とか言いながら伊地知の周りをぐるりと回る
『高専卒業以来?いつぶり?一度会ったかな?
あらあらまぁまぁ、 立派な大人になってまぁ』
伊地知は少し照れたように頭を掻いた
「あはは…… 流鏑馬さん、年、二つしか変わらないんですから
親戚のおばちゃんみたいな反応やめてくださいよ」
『だって、イッチー苦労感が滲み出てるよ?ふふふっ』
そんなやり取りをしていると、
後部座席のドアが静かに開いた
出てきたのは、スーツ姿の男
「 流鏑馬さん。こちらに戻られるとは聞いていましたが」
落ち着いた声
紅海は一瞬、言葉を失う。
『え?』
首を傾げ、下から上までじっくり観察する
一度、二度、視線を往復させてから、遠慮がちに口を開いた
『あ、待って……言わないで。
多分……多分だけど……七海?』
自信は半分
間違っていたら失礼だという顔で聞く
「正解です」
即答だった。
『え!? わ!?ファイナルアンサー!』
紅海は思わず声を上げ、今度は七海の周りを回り始める
「それは、答える前に言う台詞ですよ」
人の周りを回らない!と、七海は眉を潜める
『ちょっと待って、イケオジになっちゃって…
え?七海、背、こんな高かったっけ?』
「…言っておきますけど、あなたの方が年上ですからね」
『えー、そこ突く?』
伊地知は苦笑しながら二人を見比べる
「相変わらずですね…」
「…まったく」
そう言いながらも、どこか懐かしそうな視線だった
紅海は荷物を持ち直し、少し照れたように笑う
『二人とも、元気そうでよかった』