第22章 ブーケと夢の国
七海建人は、いつも通り几帳面に書類を整理して
事務室を出た…
『七海っ!お疲れ様!』
声をかけたのは紅海だった
髪を揺らしながら、軽く駆けて近づいてくる
『ちょうど良かった、ちょっといい?』
「お疲れ様です、構いません」
七海の前まで来ると、少しだけ嬉しそうに言う
『ね?七海も行くんだよね?』
「…それだけでは、返答しかねますが…おそらく…太田さんの…」
『そう!太田さんの結婚式!太田さんが七海も呼んでるって聞いて』
目を輝かせた彼女は眩しい
七海は頷く
「はい…と言うか、私は流鏑馬さんの付き添いな気がします…」
紅海は首をかしげる
「元々、呼ばれるほど面識が有りませんし…何より、太田さんから、流鏑馬さんを宜しくと連絡がありました」
『太田さん、私が人見知りなの知ってるから…七海を呼んでくれたんだ』
そして紅海の顔がぱっと明るくなる
『良かったぁ…七海がいてくれるなら心強い!』
七海はその表情を見て、ほんのわずかに口元を緩めた
「それは何よりです、出席の返事をした甲斐があります」
結婚式
紅海にとって、それは少し特別な言葉だった
呪術師の世界では、結婚と真逆の“死”と言う言葉が身近に有る
だからこそ――
普通の人の結婚式は、どこか別の世界の出来事のように感じる
紅海はその日を、密かに楽しみにしていた
そして当日
式場のロビーは、柔らかい光に満ちていた
大きな窓から春の光が差し込み、花の香りがほのかに漂う
まるで現実が少し優しくなったみたいな空間だった
紅海は入口で一度足を止める
胸の前で小さく手を握った…ドキドキする
家入硝子と一緒に選んだ、落ち着いた色のワンピース
派手ではないが、紅海の柔らかい雰囲気に合っている
紅海は少し深呼吸して、ロビーを見渡す
奥に見覚えのある背中があった。
背筋の伸びた姿勢にスーツ
紅海は小走りで近づく
『七海!』
「流鏑馬さん、おはようございます」
『ふふっ、おはよう』
七海は彼女の姿を一瞬見て、軽く頷く
「よくお似合いです」
紅海は少し驚いて、そして照れる
『硝子と一緒に選んだ、普段着ないから緊張する』
七海は静かに言う
「大丈夫違和感有りませんよ」