第21章 隣と桜
「今、何してんの?」
『あ、えっと、学校の先生』
嘘ではない
「へぇ、私はね、結婚して、子供2人いるんだけど
今日は久しぶりに旦那とデートで…」
早口で、途切れない現状報告
『えっと、そっか、い、良いね、羨ましい!』
紅海は彼女は悪気がないからと、口角を上げる
「流鏑馬さんは?もう結婚してる?
それとも、あ〜そうだよね?あの変な現象みたいなののせいで…」
紅海は、彼女にチラリと左手を見られた気がした
もちろん、彼女の薬指には綺麗な細いリングが通っている
“変な現象みたいなののせいで”か…
紅海の視界が一瞬、歪む
自分は、誰も傷つけなかった
守っただけだったのに
でも、理解はされないのだ
ぼーっと彼女の話を聞いていると背後から足音がした
「誰?」
五条が追いつく
『あ、元学校の友達?』
「ふぅん」
さほど、興味も無い返事をして女性を見る
女性は五条の出現で少しだけ戸惑っている
「あ、え?もしかして彼氏?」
『ちが… 「うん、まぁ、彼氏みたいな感じ」
紅海がわずかに目を見開いて五条を見る
「へぇ〜、彼氏出来て良かったね?流鏑馬さんって、昔ちょっと変わってたし、変な事件も有って転校しちゃったから、心配してたのよ」
五条は、ゆっくり首を傾げる
「事件?」
「なんか学校で暴動騒ぎがあって…
多分、ネットの匿名掲示板?でも載ってるかも
流鏑馬さんだけ血塗れで平然立ってて
なんか幽霊とかに憑かれてるみたいだって、ちょっと怖かったのよね」
笑いながら言う
まるでゴシップを楽しむような口ぶり
条は一瞬だけ紅海を見る
彼女の指先が、わずかに強張っている
「ふーん、彼女、全然怖くないよ
逆に、彼女めちゃくちゃ優しいから」
紅海の頭にポンポンと手を置く
「大体、“変”って便利な言葉だよね〜理解できないとすぐ貼れる」
女性の笑みが少しだけ固まった
「あ!学生の頃、紅海と仲良くしてくれてたんだっけ?
ありがとね〜、君のおかげで彼女と出会えたのかも?」
にっこり笑う
女性は、その言葉に意味も解らず曖昧に笑い
「じゃ、またね」と去っていく
商店街のざわめきが戻る
「さ、どこで飲む?」
いつもの声に戻る
紅海は息を吐く
『……ありがと』
「何が?」
とぼける