第21章 隣と桜
白い医務室の窓から、午後の光が差し込んでいる
『えー!もう動けるよ!』
ベッドの上で、紅海が不満を露わにする
包帯は減ったが、肩にはまだ固定具が残っている
「動けると治ってるは別物」
椅子に座った 家入硝子が淡々と言う
「呪力の流れもまだ乱れてる。再発したら面倒なのは私」
『新学期、ギリ間に合うかもなんだよ?』
「間に合わせるために無理して延びるやつ、何人見たと思ってる」
『ううううっ』
紅海は枕に顔を埋め、小さく唸る
強くなりたい、力が足りない、怪我ばかり…
頭の中で、あの杭の感触が蘇る、悔しい
「後は自宅療養、数日ね?」
硝子がカルテを閉じる
―――
自宅は静かだ、やけに音が少ない
祖母の浅葱はすでに神社に帰っている
窓の外で風が鳴る
紅海はソファに座り、肩を軽く回す
痛みは引いているが、完璧ではない
それが気に入らない
スマホが震える
〈新学期の資料共有〉
送り主は 五条悟だ
いつも通りの業務連絡
紅海は一瞬、画面を見つめる
期待していたわけじゃない…
でも、少しだけ、何かを待っていた自分に気づく
『普通だなぁ……』
小さく呟く
自分の返信も普通にする
〈ありがとう、確認するね〉
数分後
〈あと、恵が紅海の体術、真似したがってたから、復帰したら見てあげて〉
伏黒くん!心の中で教師としての喜びが湧く
〈ありがとう、やる気わいてきた!〉
五条のシンプルな業務連絡にスタンプを付けて返信する
高専の屋上で、五条は空を見ていた
紅海の任務記録を見てから、彼の視界は変わった
彼女は守られて完成する人間ではないんだ
対等…横に並んで一緒に戦う事を望んでいる
だから、彼女が自分の足で立って、再び戦場に戻るまで待つ事にした
数日後、新学期初日
校舎の廊下、窓から差し込む光の中、紅海が立っている
『間に合った!』
校舎の空気を深く吸って噛みしめる
教室の扉を開けた
「お、主役の復帰じゃん」
軽い声
五条が教壇にもたれている
『おはよう』
「ちゃんと休んだ?」
紅海は苦い顔をする
『硝子に言われて渋々ね』
「えらいえらい」
からかう調子で拍手をする
「先生お帰りなさい」
小さく会釈する伏黒に、紅海は笑顔で頷く
『ただいま』