第20章 重傷と記録
紅海は強い、だが強さの質が違う
彼女は、傷付きながら積み上げる強さだ
自分は何を見ていたんだ?
笑う顔、冗談に付き合う余裕、軽口を返す瞳、言葉のチョイス
自分は紅海が好きだ…この言葉が軽く思えた
その裏に有る彼女を、見ようとしなかったのではないか
自分が、最強であるがゆえに、他者の危機に鈍くなる瞬間がある
“僕が、死なせない”
“僕が、何とかする”
だから大丈夫…と
だが、紅海は "自分で何とかやって来た" んだと、確信する
五条の胸の奥に、じわりとした痛みが広がる
自分は、隣にいたつもりだった
だが、彼女の戦場を知らない
五条は、ゆっくりとファイルを閉じる
怒りでも、悔しさでもない
“置いていかれていた”という実感
守る対象だと思っていた相手が、
自分の知らない場所で、何度も生き延びてきた
彼女は、決して弱くない、むしろ強いと思っていた
だが、彼女から任務の事を聞いた事は、あまり無い
強い事は、無傷を保証する訳ではないのだ
その夜、初めて
紅海の“戦いの履歴”を、真正面から受け止めた
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
翌日
京都校の事務棟
建物の中は妙に静かで紙とインクの匂いがする
任務報告書の山
机の向こうで書類を閉じた男が、小さく息を吐く
遊佐由布湯だ
「…何ですの、わざわざ来おへんでも、電話一本で済んだんちゃいます?」
歓迎していないわけではないが、素直に迎える気もない
視線の先の五条は壁にもたれたまま肩をすくめる。
「冷たいなぁ~この、僕が会いに来たのに」
「昔やったら喜んどったかもしれへんけどな」
遊佐は手癖でペンを回す
「今はまぁ……別に、そうでもないよ?」
二人とも、相手を測るように見ている沈黙
先に口を開いたのは五条だった。
「紅海の事で来た」
遊佐の指が止まる
「紅海ちゃんの?」
「うん」
五条は机の上の書類を軽く叩く
「向こうで京都での任務、ざっと見たよ
でもさ、報告書って、簡潔で綺麗すぎるんだよね」
「まぁ、現場の感情とか泥臭さとか、そういうの書かへんからな」
「そう、だから、現場にいた人の話を聞きに来た訳だよ
君が一番、紅海の事を見てたでしょ?」
遊佐は小さく笑う
「……それだけで、わざわざ僕に会いに京都まで来はったんですか」