第20章 重傷と記録
治療室での、紅海の声がまだ耳に残っている
『悟、ありがとう…でも、それじゃあ、ダメなんだよ
私が悟みたいに、もっと強くならなきゃ』
「基準おかしくない?」
あの時、五条は笑った
強さを目指すこと自体は、間違っていない
むしろ歓迎すべき思想だ
だが、続いた言葉
『今までだって……有ったんだよ?……ピンチな時
……でも、自分で、なんとかやって来た……
だから、今回も……大丈夫だよ』
その時の紅海の目は、助けが無かった事を責めているわけではなく
ただ“事実”を述べていた
五条は、そこで初めて引っかかる
ピンチ?彼女が?
治療室を出た後、足は自然と事務室へと向いていた
任務記録、戦闘報告書
保存フォルダを遡る
軽い気持ちではなかった
だが、まさかと思っていた
紅海は堅実だ、無茶はしない
そう思い込んでいた
ページを高専時代まで遡り
死亡者――灰原雄
一瞬、指が止まる
五条自身も記憶している、後輩の名前
報告書には淡々と記されている
══
流鏑馬紅海が応援として参戦
領域展開後退避、重傷。10日間休学(自宅療養含む)
══
それだけ
血の匂いも、感情も、そこには書かれていない
その頃、自分は何をしていた
他の任務に出てたのか?
それとも、ただの学生生活?
紅海が重傷を負ったその10日間
自分は、気づいていたか?
記憶を探るが思い出せない
紅海が暫く見当たらなかった事
あったかもしれない
だが、深く考えなかったのではないか
“あいつなら大丈夫だろ”
その一言で、処理したのではないか
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京都配属時
2件の重傷案件を見つける
どちらも生還、どちらも“任務成功”
優等生の記録だ
だが、治療欄には、裂傷、骨折、高熱、数日の意識不明
パソコンに映る文字が、妙に冷たい
「何だよコレ……」
思わず、声が落ちる
守れなかったことへの怒りではない
何も知らなかったことへの衝撃だ
紅海は、死線を越えてきている
何度も自分のいない場所で
そして、その痕跡を自分には一切見せなかった
「はぁ…」
大きなため息と共に、五条は椅子にもたれかかり天井を見る