第18章 教示と追憶
══閑話══
夜の工房は静かだ。縫いかけの呪骸を前に、針を止める
ふと、昔、世話になった先輩の事を思い出す
流鏑馬小瑠璃
紅海の母親だ
3つ上の先輩で任務で何度も組む事があった
初対面の印象は、正直に言えば“うるさい人”
すぐに思った事を口にするし
理不尽に対してすぐ眉を上げる
だが呪術師の腕は確かだった
やけに自分だけ、シゴかれた
「正道、そこ甘い」「考える事で体が止まってる」
任務帰りでヘトヘトなのに「今日のは初手が悪かった」とか言われて組手をさせられた
腹が立つのに、理屈が通っていて言い負かされる
あの頃の私は、今よりずっと青かったのだろう
任務意外では、飯に連れていって貰ったりと
結局、面倒見がいい人だった
しばらくして、あっさりと言った
「結婚するから、呪術師、やめるわ」
「後悔はないんですか?」
精一杯の引き留めの言葉だったが
彼女は未練はなさそうに見えた
だがあの人が何も考えずに決めるはずがない
命を賭ける世界から降りる理由は一つだ
きっと、守りたいものができたんだろう
それが、紅海だった
そして年月が流れ、彼女の娘が編入してくると聞いた時は
時間がまき戻ったのではと思った
目元がどこか似ている
だが性格は違う、小瑠璃ほど棘はなく、柔らかい
だからこそ、この世界では傷つきやすいと心配した
先輩の子供だから特別扱い、というわけではない
ただ、少しだけ目を配ろうと思った
余計な無茶をしないか、変な男に振り回されないか
……そこは私の管轄外かもしれんが
小瑠璃さんに頼まれたんだと、勝手に思っている
呪骸に針を通す
人は亡くなっても、意思は残る
小瑠璃が命を懸けて守ったものが、今は紅海が守る側にたっているのだ
悪くない連鎖だと夜蛾は思う
「……相変わらず、面倒を置いていく人だな」
誰に聞かせるでもなく呟き、私はまた針を動かした。