第18章 教示と追憶
玄関を開けた瞬間、出汁の匂いがふわりと広がる
台所に立つ浅葱の背中は小さくて…いつの間にか自分が大きくなったんだなと実感する
「お祖母ちゃん有り難う、人が作ってくれるご飯って美味しいよね〜」
「上手く言って、毎日作らせる気だね?」
「違うよ!本当だよ、お祖母ちゃんのご飯好きだし」
テーブルに並ぶ煮物、焼き魚、味噌汁、茶碗にご飯をよそう
『いただきます』
暫くして、浅葱が横目で見る
「で、あの男は何か言ってきたかい」
あの男…多分、悟の事だと理解する
『うーん、通常運転かな?いつもどおり』
飄々とした態度だし何事もなかった顔
今日は胸がざわつかない自分の心が定まったからだ
浅葱はフンと鼻で笑う
「そんな軽いヤツ、やめときな」
『やめるもなにも、別に告白された訳じゃないし』
浅葱は箸を置き、ふっと息をついた
「…あんたの母親の若い頃を思い出すよ」
紅海の胸がわずかに固まる
祖母は、あまり母の事を話さない…
『お母さんって…私に似てた?』
「あんたと小瑠璃じゃ、性格はだいぶ違うよ
小さい頃から負けず嫌いでね、曲がった事が嫌いだった
呪術の修業は嫌だって悪態ついて…
でも、やると決めたら真剣でね」
「高専の寮に入ってからは、ほとんど帰ってこなくて
頼って来る事もなかった…
今思えば、こっちから助け船でも出してやれば
よかったのかもしれないね」
そして、ある日突然、陽気な男を連れてきた
イタリアと日本のハーフだと笑っていたそうだ
結婚すると言い出した時、浅葱は猛反対した
いま思えば、すでに身ごもっていたのだろう
疎遠になり…次に会った時は葬式の時だった
ずいぶん後悔したそうだ
浅葱が初めて赤ん坊の紅海を抱いた日
小さくて、泣き声が強くて
生きようとする力があったと想い出を語る
軽率な男を選ぶな、と言う浅葱の声の裏には
失った娘の影がある
『でもさ…私は、お母さんじゃないよ』
「悪かったよ…あんたの事が心配でついね」
浅葱はふと続ける
「呪術師としての、あの子の事は、正道君のほうが詳しいかもしれないね」
紅海は顔を上げる
夜蛾正道、自分の高専時代の担任
母の3つ後輩で
一緒に任務をしていたそうだ…と浅葱は言う
『そっか、こんど聞いてみようかな』
花の香りが風と友に運ばれる
春休みが終わり新学期がもうすぐやってくる
