第18章 教示と追憶
声のトーンが変わる
「じゃあ、私の経験からひとつ言っておくけど
男って、案外、雰囲気があれば
誰とでもキスできるもんよ?
そこは気を付けたほうがいい」
『えっ…そうなの?』紅海が目を瞬かせる
「菊池の件もそうでしょ?
雰囲気いいしキスしとくか!みたいな
ワンチャンその後も流れで…
あわよくば付き合えたらラッキー!
みたいな男、普通にいるからね?
だから流されちゃうのは要注意」
現実的で、乾いた分析だった
紅海は小さく息を吸う
『悟の時、私、このままでも良いのかもって…
…流れに身を委ねかけたかも…』
その一言で、太田の目が細くなる
「は?」
火がついた
「それダメ!完全にダメ!
自分の意思じゃなくて“空気”で動いたら後悔するやつ」
紅海は黙る
拒まなかった自分を思い出す
「好きで身を委ねるのはいいよ?
でも、“まあいいか”で委ねるのは違う」
太田は指でテーブルを軽く叩く
「押せばいけそうな女、って思われたら終わり!大事にされなくなる」
言葉はきついが、悪意はない
「でもさ」と太田は続ける
「防御一辺倒もダメ!駆け引きって大事よ?
鉄壁すぎると、男は“脈なし”って判断して引くからね?」
紅海は、太田さんって恋愛経験豊富なんだなぁと
頭をフル回転で聞き逃さないようにする
「自分で選ぶの…
触れさせるかどうかも、距離を詰めるかどうかも
相手の勢いじゃなくて、自分の基準で」
紅海は静かに考える
嫌われたくないなって思いがあったから拒否れなかった
あの時、お婆ちゃんが止めてくれてよかった
「紅海ちゃんはさ、もともと無防備そうなんだよ
悪気なく隙があるタイプ」
図星だった
相手の寂しさを感じ取ってしまう
その優しさが、境界を曖昧にする
「優しいのはいい…でも、優しいと“安い”は違うからね」
その言葉に紅海はゆっくりと頷く
自分で選択する…それは、自分に責任を持つと言う事でも有る
相談した事で、少しだけ気持ちがクリアになった
その後、太田は、いかに自分が恋愛で失敗してきたかと
いろんな笑える失敗を話してくれて
紅海と一緒に笑いあう
失敗するのも経験で、失敗するのを恐れていては、こんな素敵な女性にはなれないんだな
…と紅海は太田を尊敬するのだった