第4章 東京とおたべ
五条悟は窓際にもたれ、ぼんやりと外を眺めていた
明日は、 紅海が東京校に戻ってくる
編入してきた時の事を思い出す
百体以上の呪霊を一人で祓ったやつが来る
そんな噂を聞いて、正直どんな化け物マッチョが来るかと思えば
実際に現れたのは弱っちそうな女の子
気にするまでもない…それなら傑と昨日のテレビの話しでもするか
そう思って雑談していると、声をかけられる
自己紹介と言えない短さで、自分の名前を告げる
紅海がハッとした表情になったので
いつもの事…呪術師なら名前を知らないヤツは居ない
特に女子なら、このヴィジュアルだし?媚びてくんの?
と、思った時
「よかったぁ、普通の男の子で」
ふにゃっと笑った
持ち上げる事もなく、特別視も期待も落胆も恐れもない
“普通”
はぁ!?俺が普通!?妙に腹が立った
自分でも驚くほど、プライドを踏み抜かれた
だから雑に扱ったり張り合ったり
距離を測るみたいに、わざと棘のある態度を取った
突っかかって、上に立とうとし
なのに彼女は、変わらない
普通に俺の横に立つし、付いてこようとする
上にも見ないし下にも見ない
…気づけば、目で追っていた
数年前の看病しに行った時の事も思い出す
硝子から携帯を渡された時、心配もあったが
正直、俺より先に硝子に連絡を入れた事にイラっときた
それ以上に自分を大切にしないところに腹が立ったし
"久しぶりに会える口実ができた"なんて思った自分にも腹が立った
でも、これは同期として思ってるだけ…それだけの事…多分
実際に行ってみると、意識朦朧だし
抱え上げると高専の頃より軽くて驚いたし
『覚えててくれたんだ』って言われてしまい
逆にお前の方が忘れてたんじゃないの?って言いたかったけど
病人に言うのはやめた
それから、 忙しさも有ったし
紅海からも連絡もなく…会える訳もなく
去年の百鬼夜行だ
紅海は、傑に懐いていた
それを知っているから
「京都も大変だったから」
そんな理由を盾にして、真実を伏せた
内容も意味もない一文を代わりにLINEした
返ってきたのは、短い一言
『大丈夫だよ』
…何が、大丈夫なんだよ
そして、思考が今に戻る
普通の男の子と言われたあの日から
紅海への正体不明の感覚はずっと続いている
その感覚に名付ける事を五条はしない