第16章 春休みと経験値
『あのさ…私、自意識過剰すぎて自己嫌悪中なんだよ
笑わないで聞いて欲しいんだけど
ちょっと優しくされたり、距離近くなったりしただけで
あれ?特別扱いされてるのかな?
無い無い!みたいに自己ツッコみしちゃってて』
紅海は指先でグラスの縁をなぞる
『普通の女子ってどうなんだろ?
どうやったら、普通女子にレベルが上がれるように
経験値って積めるんだろ』
庵は紅海が可愛くて一瞬だけ笑いそうになり止める
しかも、遊佐の言った通り、少しずつ意識してるんだ…と
硝子は頬杖をつきながら
「経験値は勝手に入るもんよ
近づかれてドキッとするのも、経験値
近づかれて何コイツ!って思うのも、経験値」
庵が続ける
「普通の女子って何?
皆わりと振り回されてるわよ」
紅海はうつむき考え込む
その間も、庵と硝子は別の話題で笑い合っていた
紅海は一瞬、遠くにいるような気分になるが
急に顔を上げ
『あーもー!よし!もう考えるの止めよ!』
半ば勢い
『そう言えば
ちょっと前に、七海の元同僚と社会勉強の一環で食事できないかな?ってお願いしてて
…気がすすみませんがって言ってたんだけど
話してくれたらしくて…何人かと飲みに行けそうって!』
硝子の箸が止まる
庵がゆっくり瞬きをする
「…は?七海の、元同僚?」
二人の声が重なる
呪術界は閉鎖的、顔ぶれは固定で世界は狭い
だから一般企業で社会人経験のある七海に頼んだのだ
“普通”を見てみたい、と
庵が腕を組む
「七海が了承したってことは、相当慎重に選んだわね」
硝子は半笑い
「でも、いきなり一般社会の飲み会はハードモードじゃない?」
「そうよ…あんた、知らない男と会話できるの?」
図星だ
『でも、女の人も来るんだよ!』
庵は少しだけ真面目な声になる
「そう…じゃあ、まぁ悪くないわ、外を知るのは大事だしね」
硝子が続ける
「ただし、変な誘い受けたら七海に丸投げて!」
紅海はほっとする…否定されると思っていた。
『なんか…呪術師って世界しか知らないのが、ちょっと怖くなって
普通の人の感覚とか、知ってみたい』
ポツリと本音
庵はグラスを持ち上げる
「いいじゃない、経験値稼ぎに行きなさい」
硝子も笑う
自分の感情が分からないなら、広い視野で見るのも手だ
経験値は、たぶん戦闘だけじゃ増える事はない
