第16章 春休みと経験値
店内の喧騒が少し落ち着き始める
庵はグラスをくるりと回しながら、紅海を横目で見る
「で?本当の所、どーなのよ?
ね?由布湯とは?」
軽い調子だが、由布湯の恋をサポートしたい庵
『ど、どうって…』
紅海は梅酒をほんの少し口に含む
『こっちに来ても、たまに連絡くれたり、優しいけど…』
「けど?」
それ以上の言葉が出ない
庵は内心で小さく息をつく
由布湯は策士だ
距離の詰め方も、引き際も心得ている
紅海の性格も理解した上で急がない
でも、それ故に紅海が困惑していないか心配だ
「まぁまぁ、先輩
紅海って、恋愛話に疎いから」
『なんか…漫画やゲームみたいには、解らないから』
紅海は視線をテーブルに落とす
『パラメーターみたいなの見えたら良いのになぁとは、思う』
好感度、信頼度
数値で表示されるなら、選択肢も間違えないのに
硝子が笑う
「紅海らしい~」
昔からそうだ
自分の感情より、相手の状態を優先する
誰かが困っていれば、そちらを先に考える
だから自分の“好き”や“嫌い”は、後回し
そして、今は自分の好きや嫌いが行方不明
庵はグラスを置く
「由布湯はさ、ああ見えて…いや、何にもない」
押すときは押すよ!と言いたいけれど
そこまで言えば、由布湯との約束を破る事にもなる
紅海は頭の上にハテナが飛んだ
「京都の皆と話してたのよ、紅海と由布湯ってお似合いだよねって」
沈黙を埋めるように、庵は口を開く
『いやいや、それは、遊佐くんに悪いよ!』
話をはぐらかそうと紅海が話題を持ってくる
『歌さんだって、悟と仲良いし…
周りの子達も、歌さんと悟は
隠れて付き合ってるんじゃないかって言ってましたよ?』
言った瞬間、自分で驚く
なんで、悟のこと、今持ち出しちゃったんだろ
庵の眉がぴくりと動く
「はぁ!? 誰があんなのと!」
即座に否定
硝子が吹き出す
「ないない。歌姫先輩と五条は犬猿の仲でしょ」
「犬猿って言うな!どっちが猿だ!」
何であんな事言っちゃったんだろう
しかも安心してる自分がいる
歌さんが悟を好きかどうかを確認したかったのかな?
「紅海、もしかして」
硝子がじっと見る
『え!?な、なに?』
硝子の視線に、見抜かれた気分になり、ドキッとしてしまう