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【呪術】もしも、希望の隣に立てたなら。【廻戦】

第16章 春休みと経験値


高専の校舎裏
紅海はベンチに座って、目を瞑る
イヤホンから流れる旋律が、静かに鼓膜を震わせる

人に気を遣うのは、もう癖になっている
相手の表情の変化を拾い、言葉の温度を測る
それが苦ではない…
ただ、無意識に続けていると、自分の心が消耗する時がある

だから、こうして一人で音楽を聴く時間が好きだった

誰にも合わせなくていい
このまま一日中、ここで座っていてもいい
そんなことを、ぼんやり考える

その時
ふっと、左耳が軽くなる

『え…』
振り向くと、白い睫毛に青い瞳
五条悟の顔が近い

彼が、外されたイヤホンを耳に寄せる
「何聴いてんのかと思ったら、懐かし
これ、ゲームのサントラ?」

紅海は、声が出ない
先日の突然抱き締められ「挨拶のハグ」と
言われた事が脳裏をよぎる

イヤホンを返してくる五条は、いつも通りの表情だ

本当に、ただの挨拶だったのかもしれない
そう思えてしまうほど自然だ

『悟…知ってるの?このゲーム』
ようやく絞り出す

「うん、RPGなのにさ、戦闘で属性とかフィールドの色?とか
ややこしかったやつ…逆に紅海、知ってるんだ?」

『うん…私、ゲームとか漫画とか好きだったから』
違う環境で育ったはずなのに同じ物語を通っている
それだけで緊張がほどける

五条は隣に腰を下ろす
足を投げ出し空を見上げる
『音楽って…その頃の自分思い出とか
時代が戻るみたいで…つい懐かしいくて
今の自分が嫌いな訳じゃないけど
…少しだけ、昔の自分に会いに行ける感じがして』

あの頃は戦いは、画面の向こうでリセットできた

五条はしばらく黙っていた
「時間ってさ不可逆なんだよね
でも、人間の脳はわりとバグってて
音とか匂いで簡単に過去に飛ぶ…便利だよね」
ふっと笑う

『そういえば、何で目隠し下ろしてるの?』
「紅海が前に目が合うのが好きって言ってたからね
紅海と2人で話す時くらい外すよ」
心臓が跳ねた
勘違いしちゃダメだと自分に言い聞かせる

紅海はイヤホンの片方を差し出す
『一緒に聴く?』
「いいの?」
悪戯っぽく笑いながら、素直に受け取る
二人で、片耳ずつ、同じ旋律が、同時に流れる
遠い海辺のような音に、春を感じる風が吹く

戻れない時間の上で、同じ曲を聴いている
それだけで、少しだけ世界がやわらいだ
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