第15章 月と袈裟
「それに…これは、私の意思だよ」
静かな断言
「何も知らず、のうのうと生きている非術師を命がけで護る
君のような存在が散ってしまうのが、耐えられなかった」
月光が彼の横顔を削る
優しさと、歪んだ決意
矛盾しているのに、両方本物だ
『…それでも』
紅海は、ゆっくり顔を上げる
『どんな人でも目の前の命を救えるのなら、私は戦うよ
それに、今でも傑に、コッチに戻ってきて欲しいって思ってる…』
夏油は一瞬だけ目を細めた
「…君は変わらないね」
『傑は真面目で頑固すぎるよ』
「どの口が言ってんの?そのままそっくり返すよ」
沈黙…
ふと傑の姿を確認する
『傑、お坊さんになったの?』
緊張に耐えきれず、少しだけ冗談めかす
「ははは、この格好の方が何かと便利なんだよ」
そうなの?と、紅海は包帯越しに肩を押さえる
『傑、いつも綺麗に包帯巻いてくれるよね』
「君がいつも無茶をするからね、そりゃあ上達するよ」
かつての任務帰りの会話のようだ
『ね?一人ぼっちじゃない?ちゃんと生活できてる?』
思わず口をついて出る
「心配してくれてるのか?」
薄く笑う夏油
「私は私の理想のために動いている
孤独ではないよ…同じ志を持つ者もいるしね」
『そっか…ちょっと安心した
私もあの時、傑の味方になれれば良かった』
夏油の視線が動く
「いや、紅海は来てはダメだ」
一緒に堕ちるには紅海は純粋すぎていつか壊れる
また沈黙が落ち、虫の音が聞こえる
遠くで夏油の張った結界が破れる気配がした
「おっと…そろそろ、この場所が見つかってしまうな」
縁側を下りる
「今日、ここで会ったことは内緒にするんだよ?
でないと、紅海が上に責められたり疑われたりするからね」
『あ、ちょ、傑、待ってよ…』
紅海は立ち上がりふらつくが、そのまま裸足で下りる
『嫌だよ、行かないで…もっといてよ
このまま、さよならは嫌だよ
どうにかならないかな?
免罪して貰えるようにとか…
それとも、一緒に…』
自分でも幼いと解っているし、自分勝手な無理な願いだと理解している
それでも言葉が止まらない
袈裟の袖を、ぎゅっと掴んだ
ただ、離れたくない
夏油は紅海の瞳をまっすぐに見た
ゆっくりと彼の掌が彼女の両頬を包み込む
紅海の瞳が潤んでいるのが解る