• テキストサイズ

【呪術】もしも、希望の隣に立てたなら。【廻戦】

第15章 月と袈裟


『ふぅ』

肺の奥の空気を吐ききった、その瞬間

背後に、重い衝撃
肉を裂く感触
鋭い牙が肩口に食い込み、遅れて熱が走る

『ぐっ!!』

視界が揺れる
鬼は祓った…群れも散らした
終わったと判断した、その一拍の油断

大型の呪霊が、最後に噛みついた

呪力を練ろうとしたが、指先が言うことをきかない
しまった、油断した…野薔薇ちゃん、逃げられたかな…

意識が、水の底に沈む様に静かに途切れた

………

一定のリズム
ぽん、ぽん、と身体を軽く触れて
子供の様に寝かしつけられている感覚

どこか懐かしい体温
硬くもなく、柔らかすぎもしない膝の感触
任務用の上着が自分に掛けられているのが解った

あぁ、気持ちいいなぁ
月明かりが、瞼越しに赤い

ゆっくり目を開ける
神社の縁側
視界の端に、黒い僧衣

『…っ痛』
肩に鋭い痛みが戻る
反射的に押さえると、包帯が巻かれていて血は止まっている
体を起こすと、膝枕をしていた相手と目が合った

『…え?…す、傑だ』

長い黒髪、穏やかな笑み
けれど、その奥にあるものは、かつてと同じではない

「やぁ、紅海、久しぶりだね」

声音は変わらない
「昨日が中秋の名月で、今日は満月だそうだよ」
僧衣の袖から覗く指が、夜空を指す

「わ、本当だ…」
反射的に笑ってしまう
その瞬間、胸が軋む

目の前にいる男は
数年前に集落の百人を超える一般人を大量虐殺し
呪術界を追放された最悪の呪詛師だ

理屈では理解している
だが感覚は、教室で隣に座っていた級友のままだ

『傑、助けてくれたの?』
「丁度ね…ここらの呪霊を手に入れたかったんだが
残念ながら紅海が既に祓っていたようだ
こんな所で会うなんて運命かな?なんて」
軽く肩をすくめる

“手に入れる”か…
言葉の重さが、影に沈む

『そっか…ありがとう』
最悪の呪詛師と呼ばれる目の前の男は
自分を大切にしてくれていると言う矛盾

『…傑』
紅海は視線を落とす
『あの頃、傑に、いつも泣き言ばかり言っちゃっててさ
傑はいつも聞いてくれてて…ごめんね何も理解できてなかった』

任務地が遠いとか、悟が意地悪してくるとか、勉強が解らないとか…くだらない話をしていた
彼の方が、ずっと深い場所で苦しんでいたのに

「いいや、紅海と話すのが楽しくて
好きで聞いていたからね」
/ 169ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp