第15章 月と袈裟
紅海は目の前の命を救うために
パンッ!と掌を合わせ掌印を結ぶ
『 領 域 展 開!! 』
【 慈 掌 緩 枷 】
じしょうのゆるがせ
世界が反転した感覚
拝殿を中心に、数10メートル先に、十字架の呪力が刺さる
攻撃する対象には、攻撃の枷をかける
紅海が“触れた対象”は護られる
野薔薇の頬に、そっと掌を当てる
『あなたは今から、どんな攻撃も通らない
代わりに呪力は練れないから…気をつけてね』
「解った、任せて!すぐ戻る!」
紅海は、走っていく野薔薇に微笑んだ
薄い光が野薔薇を包む
ネズミの呪霊が噛みつく
だが歯は、皮膚に届かない
弾かれ、地面に転がる
岩壁の隙間を抜け、野薔薇は走る
鬼が吠えた
領域を力で破ろうと、呪力を膨張させる
紅海は構えた
鬼が突進する
その拳が振り下ろされる直前、紅海は踏み込む
掌で鬼の腕に触れた瞬間、鬼に見えない枷がかかる
枷が、攻撃の手数を減らす
完全な枷ではないが、刹那が生まれる
十分だ。
呪力を拳に集中させる
小学生時代から叩き込まれた基礎だ
踏み込み、回転、一撃
拳が鬼の胴を抉るが、急所ではない
鬼の角が紅海の肩を掠め、拳が飛んでくる
血が散るが無視だ、鬼の拳をかわして後ろへ飛び退く
鬼が怒りで無闇やたらに動くので
攻撃の手数が減っていく
紅海は両掌を鬼の胸の前で構える
『縢り(かがり)』
呟きと同時に、地面か盛り上がり
鬼の四肢を縫い付け沈む
全身の呪力を地面に送る
『針山(はりやま)』
針の様になった地面が鬼を刺す…静かな一撃
鬼が絶叫し最後の抵抗をする
紅海は至近距離で踏み込み
もう一度、鬼に呪力を宿した脚で蹴りあげる
鬼の身体が、崩れ落ち、霧散し祓われた
続けて、周りのネズミ型の小さな大量呪霊への攻撃
掌印を結び掌を上へ向ける
『霧香(きりのか)』
立ち上る呪力のこもった霧で次々に祓われる
紅海の膝がわずかに沈む
呼吸を整えながら、森の奥を見る
小さな足音は、聞こえない
あとは―任せた
血の滲む肩を押さえ、紅海は静かに立ち上がった