第2章 ゆらゆら
「見知らぬ男と寝室で二人きりって状況をもう少し警戒した方がいいんじゃあないか?」
彼の纏う空気が一気に冷え込む。部屋の温度すら下がった気がして、ぞわりと身震いしてしまう。
「俺が、その気になれば」
彼は言葉を切り、私の顔のすぐ横に左手をついた。
体重がかかり、ベッドが軋む。視界が一気に近づく。
右手が、私の髪をすくい上げる。指先が、首筋に触れそうな距離。
まずい、まずい、まずい…!
反射的に両手で押し返そうとするが、力が入らない。
近くで見る彼の顔は、やはり信じられないほど整っていた。
毛穴ひとつ見えない肌。長い睫毛。
飴色の瞳に、怯えた自分の顔が映る。
鶴丸はじっとしばらく私を見て、目を細めたあと、ふっと、力を抜いた。
次の瞬間。
ぐり、と眉間を指で押された。
「……っ」
「驚いたか?」
悪戯っぽい声。
痛みに小さく声を漏らした私を見て満足したのか、彼はあっさりと身を引いた。
眉間に触れた手は金属のように冷たく、熱っぽい体には心地よかった。
体重が離れ、ベッドが再びきしりと鳴る。何事もなかったかのように、鶴丸は背を向ける。
「今のはまるっきりの冗談だが。まあ、少しは警戒心を持った方がいいってことさ」
そう言って、机の上にあったらしいグラスを手に取り、驚かせたお詫びだと言わんばかりに、こちらへ差し出した。薄い茶色の麦茶らしきものに、ストローが挿してある。
「喉、渇いてるだろ」
確かに、喉は限界だった。
小さく頷き、体を起こしてグラスを受け取る。
ストローを吸うと、麦茶が喉を滑り落ちていく。乾ききった体に染み込む感覚が、やけに生々しい。