第4章 ぐらぐら
「そもそもこんなとこで寝たのは、きみの為でもあるんだぜ? 昨日の夜のこと覚えてるか?」
「……ごめん、覚えてない」
「だろうな〜」
予想通りだと言わんばかりに、彼は笑う。次の瞬間、私の頭に、少し乱暴で、でも加減された力が落ちてきた。
ぐしゃぐしゃと、髪を撫でる手。
その距離の近さに、一瞬、呼吸を忘れてしまう。
我に帰って、慌てて頭に降ってきた手を押し除けて怒ったふりをする。また、鶴丸は笑った。
「……あのさ、私、なんか夜の間に言ってた?」
なんでもない顔を装って聞いた。
「まぁ、少しな。悪い夢でも見たんだろ」
それ以上は言わない気遣いが、彼の優しさそのものだと分かってしまって、胸が苦しい。
穏やかな沈黙が落ちる。
「……なんかさ」
先に口を開いたのは、私だった。
「いつも、ありがとうね」
自分でも驚くくらい、自然に言葉が溢れた。
鶴丸は、きらきらした黄金の瞳を落としてしまいそうなほど、大きく目を見開いた。
「……いや、そんな驚く?」
「驚くね。今日は雪でも降るかもしれん」
そう言って、わざとらしく空を仰ぐ仕草をする。
「普通、自分を閉じ込めてる相手に感謝するかね」
呆れ混じりの声音だった。でも私がこぼした感謝を拒むような気配はそこにない。それになんだかとてもホッとした。
「それはそうなんだけど。でも、だって、鶴丸は優しいじゃん」
「……きみは騙されやすそうだな。本当の悪人は、良い人を装って近付くもんだぜ?」
「でも、鶴丸は悪人のお芝居が下手くそすぎるよ」
一瞬、言葉が途切れる。鶴丸は、私から目を逸らした。
「……そりゃ、参ったな」
その呟きが、何に向けられたものなのか、私には分からなかった。