第2章 ゆらゆら
記憶は2週間ほど前に遡る_______
目を覚ました瞬間、まず、知らない天井が視界に入った………ひどくありふれた表現だけど、実際知らない場所で起きるとそう形容するしかなくなるということを初めて知った。
白く、清潔で、けれど無機質すぎるわけではない空間。上質そうなベッドや机、棚や間接照明など、色々なインテリアが置いてあるから病院ではないと思う。
でも、人が暮らすにしては整いすぎていて、まるでモデルルームのようだ、という感想を抱いた。
………ここは、どこだろう。
そう思った途端、頭の奥がじん、と鈍く痛んだ。
どうして、知らない場所にいるのか、思い出そうとして、気付く。
……なにも、思い出せない。
自分の名前も、ここに来るまでの経緯も。
何も、分からない。
心臓が早鐘を打ち始める。息が浅くなり、喉がひくりと鳴った。
「……起きたか」
唐突に誰かの静かな声がして、肩が跳ねる。
状況を把握するのに必死で、まるで気付かなかったが、ベッドの傍らに、ひとりの男が立っていた。
しばらく現れた男の様子をしげしげと観察してしまう。
灰青がかった白い髪は襟足だけが伸ばされて少し軽薄そうな印象だが、服装は白いシャツに、黒のスラックスで、全体的にかちりとした雰囲気の男である。細身なようで、スラックスには少しゆとりがある。
長い睫毛の影を落とした瞳は水飴を煮詰めたようで一見甘やかである。しかし、その奥に目の前の私を無感情に観察するような冷静さがあることを覗くことができた。
すらりと通った鼻筋に、薄く小さな唇はゆるやかに弧を描く。肌は血潮が透けそうなくらい薄く、白い。
つまり、簡単に今の状況をまとめるのであれば、気付かぬうちに、枕元に、人形のように整った顔立ちの男がスーツを着て立っていた。
現実感があまりにも欠けている。
私は、これが夢の中なのではないかと疑い始めた。
「……大丈夫か?気分は?」
男は、そう言いながら自然な動作でベッドの縁に腰を下ろした。距離が近い。やけに近い。
「……ここ、どこ…です、か…?」
自分の声が、思った以上にかすれていた。
男は痛々しそうに一瞬だけ目を伏せ、それから柔らかく微笑む。