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【刀剣乱舞】同居人のヒミツ

第4章 ぐらぐら


 そばにいることが当たり前になってしまうと、いつの間にか呼び方も変わっていた。

 「鶴丸さん」は「鶴丸」になり、敬語もどこかへ置き忘れてきてしまったように、すっかり出なくなった。背筋を伸ばす癖も、視線をわざと外す癖も、気付けば消えていた。

 しばらくして、鶴丸は日中、家を空けるようになった。

 仕事だそうだ。

 勤労は日本人の三大義務のひとつである。そんな当たり前のことを、今さら思い出す。
今の私がそれを免除されているほうが、ずっと不自然なのに。


「いい子にしててくれよ?」
 彼はそう言って、出かける時に額をこつんと当ててくる。
最初は熱を確かめるためだったはずのそれは、いつの間にか、別の意味を持ち始めていた。される度にそんなのずるいと思う。


 彼が出かけたあとの家は、いつも、ひどく静かだ。

 最初はただ音が欲しくてテレビをつけていたけれど、昼間の番組は退屈だった。


 そんな愚痴を何気なく話したら、次の日、鶴丸は音楽プレイヤーをくれた。

 スマホは相変わらず取り上げられたままだから、小さな白いそれが、今の私の世界のすべてだった。

 ネットに繋がっていて、音楽は聴き放題だったから、興味本位でランキングやプレイリストを流していると、不意に聴き覚えのある曲に出会うことがある。

 記憶はないはずなのに、断片だけが、耳の奥に残っているらしい。

 その話を、珍しく早く帰ってきた鶴丸に夕食の席でしてみたけれど、彼は特に表情を変えなかったから、私の記憶が戻るかどうかなんて、彼にとっては大した問題じゃないのかもしれない。そう思うと、美味しいご飯の味がしなくなってしまった。

 あからさまに落ち込んだ私を見て、少し慌てる鶴丸は面白かったので、別に悪い思い出はないけれど、それ以来彼に話すことは、少し選ぶようになってしまった。
 膨らんだ気持ちはきっと対等じゃないと、分かってはいたけど、気付かないふりをした。
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