第4章 ぐらぐら
鶴丸は、自分がおかしくなってしまったのかもしれないと思った。心臓が警鐘を鳴らすかのようにバクバクとうるさい。
『人間は変わっていくことを恐れるくせに、変わらないものを笑うからね』
昼間の髭切の言葉がフラッシュバックする。
(あぁ、髭切の言う通りだ。俺はすっかり変わってしまった)
記憶のない状態の彼女を好いたところで、それは本当の彼女自身なのかも分からない。
それでも鶴丸はもう己の恋心を、任務だなんて言葉で片付けることはできなかった。
たしかに、今、己は恋をしている。
目の前の彼女は、恐怖と安堵と疑心暗鬼でいっぱいいっぱいなのだろう。目の前の鶴丸の覚悟などに気付くはずもなく、鶴丸の言葉を聞くと、白いワイシャツに縋りついた。
「……鶴丸、つるまる、わたし、こわいよ……!」
嗚咽混じりの声が溢れる。
「…なにを、信じたらいいの……!」
涙は止まらない。肩を震わせ、息を乱し、必死に鶴丸にしがみつく。
鶴丸は、もう躊躇うことなく、ゆっくりと、腕を伸ばした。
そして、そっと彼女の小さな体を抱き寄せた。
「……信じてくれとは言えないさ。
それでも、きみは絶対大丈夫だ。大丈夫」
彼女の額が、胸元に触れる。彼女の熱を持った体から、温度がやさしく伝わる。シャツが涙で濡れた。
「……っ、ひっ……」
呼吸が整わない彼女の背中をゆっくりとさする。薄いパジャマ越しに伝わる柔らかな肌の感触になぜだか無性に安堵した。
鶴丸の心臓の拍動が異様に速いことに彼女は気付いているだろうか?
「ほら」
呼吸に合わせて、静かに。
「吸って。……吐いて」
最初は上手くいかなかった。それでも、何度か繰り返すうちに、彼女は少しずつ落ち着いく。
「……ごめ、んね……」
そんな言葉が聞きたい訳じゃないさ。静かに首を振って否定したけど、伝わったかは分からない。
それでも、ぎゅっと。彼女は鶴丸のワイシャツを掴んだ。
「……つるまる……」
今度の4文字はきっと。
「……ここに、いて……」
「ああ、いるさ」
彼女が泣き疲れて眠りに落ちるまで、鶴丸はその場を離れなかった。
朝になったらすべて元通りになることを心のどこかで祈りながら。