第4章 ぐらぐら
「ははっ変な空気になったけど。きみは、今、ここにいる。確かに生きてるんだ」
「……でも、でも……」
そうさ、きみは生きてる。政府の管理下だろうと、ここにいる限り身の安全は保証される。
「私、何も……何も、持ってない……」
何も、持っていない?
きみにはあるだろう?きみの本丸が。
記憶が戻ったら“家”に帰るんだろう。
(……俺を置いて)
すんでのところで出そうになった言葉たちをなんとか飲み込む。
鶴丸は恐ろしかった。彼女と共にいればいるほど自分の思考が変質していく。
(ちがう、一時的に任務で共にいるだけだ。私情は冷静な判断を奪う)
鶴丸は一瞬躊躇って、手を伸ばした。
シーツの上に置かれた彼女の手の、すぐ隣。
彼女が逃げられる距離。
「生きていれば、思い出せる。取り戻せる」
できるだけ静かに、淡々と告げる。彼女の指先が、微かに震える。あぁ、己の指が同じように震えでもしたら、彼女にこの思いは少しでも伝わるのだろうか。
「……どうしても、思い出せなかったら……?」
潤む瞳を愛らしいだなんて。そんなことを思ってしまう。
「それでも、問題ないさ」
「……どうして……?」
彼女が不思議そうな顔をする。やめろ、これ以上近付いたら。
「そのときは、きっと」
(…全てがなかったことになる)
分かっているのに。
「……鶴、丸……?」
続きを言わない鶴丸に焦れた彼女が名前を呼ぶ。さっきのが“声を聞かせて”だとしたら今度はどんな意味を持つ四文字だろう。
それが、“触れて”とか“抱きしめて”とかそういう類のものだったらいいのに。
「ああ」
続きは言わずに頷く。
「きみのことを、何があっても、守るから」
だから、この想いを抱くことを許してくれないか。