第3章 幕間1
沈黙を破ったのは、膝丸だった。
「兄者、こんなところで妙なことを言って鶴丸を脅さないでくれ」
「はいはい、分かってるよ」
髭切はひらひらと手を振る。
「それに、脅してるわけじゃないよ。ただの忠告」
もう目を通し終えたのか、手に持っていた書類をパタンと閉じ、髭切は鶴丸を真っ直ぐ見つめる。
「もし改変派が主導権を握れば、あの審神者の一件は“なかったこと”になる。その可能性が日に日に高まっているのは鳥丸だって知っているはずさ」
なかったこと、ねぇ。
鶴丸は目を伏せた。よく磨かれた髭切の革靴をなんともなしに見つめる。
「君はあの子をどうしたいの?」
視線を外したところで追及を止めるような男ではない。鶴丸の肩に手をかけると髭切は尋ねた。その声は天気の話でもするようにいつも通りだ。
「……どうもしないさ」
髭切の手を払い、鶴丸はそう答えた。
「政府の決定に従う。それだけだ」
「ふぅん」
どうやら鶴丸の返事は髭切のお眼鏡にかなったらしい。彼の目から静かな圧力が消える。彼は、鶴丸の方から、進行方向にくるりと向き直った。
「でもさ」
髭切は再びゆったりと歩き出しながら言葉を付け足す。横で二人の様子を心配そうに見守っていた膝丸も兄の歩調に合わせて横に並び直す。
「変化も悪くないものだよ。人間は変わっていくことを恐れるくせに、変わらないものを笑うからね」
鶴丸はそう呟くように言った髭切の背中を見つめる。気付けば会議室は目の前だった。
先に部屋の中に姿を消した二人を追いかける。
守るのは、正史。
守るのは、この国。
そのための、監視任務。
軽く頭を振ると、会議室に踏み込んだ。