第4章 同じ時間を過ごす
周囲に、ざわめきが広がる。
爆豪は、腕を組んだまま、口角をわずかに上げる。
轟は、静かに息を吐いた。
——追い込んだ言葉が、今は支えになっている。
白井は、訓練を終えて一歩下がる。
胸は高鳴っている。
でも、呼吸は乱れていない。
——できた。
⸻その事実でどこか救われた自分がいた。
昼
合宿の片付けが進む。
誰かが笑い、誰かが写真を撮る。
白井は、その輪の中にいた。自然に。
それでも。
ふと、視線を落とす瞬間がある。
笑顔の奥に、消えきらない影が残る。
——全部、話したわけじゃない。
個性は、共有された。
でも、理由は、まだ胸の内だ。
⸻
「……白井」
静かな声。
振り向くと、
心操が立っていた。
「少し、いいか」
二人は、演習場の端へ歩く。
人の声が、少し遠くなる。
「今日の動き」
心操は、前を見たまま言う。
「……才能が花開いたな」
評価でも、驚きでもない。
事実の共有。
「……うん」
白井は頷く。
「隠さなくていいって、思えたから」
心操は、一拍置く。
「……それでも」
視線が、白井に向く。
「まだ、残ってる」
影の話だと、
二人とも分かっている。
白井は、否定しなかった。
「……ある」
短く。
心操は、そこで踏み込まない。代わりに、こう言った。
「聞く準備は、できてる」
命令でも、催促でもない。
「今じゃなくていい。合宿の勢いでもない。お前が、“話す”って選んだときに」
白井は、目を見開いた。
——待つ、という覚悟。
「……ありがとう」
その言葉は、軽くない。
心操は、肩をすくめる。
「俺は、止められる側でも、聞く側でもいい」
それが、彼の選んだ立ち位置。
白井は、空を見上げた。
——もう、鎖は解けている。
——でも、影は、時間をかけてほどくもの。
「……そのときは」
白井は、静かに言う。
「ちゃんと、話す」
約束ではない。
選択の宣言だ。
⸻
合宿最終日の風が、吹き抜ける。
才能は、確かに開いた。
でも、物語はまだ続く。
次に開くのは、
彼女の過去。
それを聞く準備ができた男が、
すぐそばにいる。