第4章 同じ時間を過ごす
宿舎に戻る途中。
「……白井」
今度は、静かな声。
轟焦凍が、木立の影から姿を現した。
「少し、時間いいか」
「……いいよ」
二人は、焚き火の跡が残る広場へ向かう。
「昨日、個性の話をした」
轟が、淡々と切り出す。
「目を逸らすな、と言った」
視線を落とす。
「……追い込みすぎたかもしれない」
白井は、首を横に振った。
「……轟の言葉は、私の中に残ってる。“並ぶ”って言葉」
少し、笑う。
「個性と、並んでいいんだって思えた」
轟は、驚いたように目を瞬かせた。
「……それなら」
小さく息を吐く。
「言ってよかった」
それだけ。
謝罪は短い。
でも、誠実だ。
「……ありがとう」
白井が言うと、
轟は軽く頷いた。
「無理は、するな」
それは命令じゃない。
約束でもない。
“理解”だ。
⸻
部屋へ戻る廊下。
白井は、立ち止まって空を見上げた。
——追い込まれたと思っていた言葉が、
——実は、支えになっていた。
それを、
ちゃんと伝えられた。
胸の奥が、静かに満ちていく。
この夜は、
誰かに守られた夜じゃない。
言葉を交わし、同じ高さに並んだ夜だ。
確かにここまで来た。
次に語られるのは、
個性の話ではない。
彼女自身の過去。
それを、
誰に、どこまで話すのか。
答えは、
もう少し先の夜にある。