第4章 同じ時間を過ごす
訓練が終わり、
日が落ちた林間施設は、昼とは別の静けさを持っていた。
湯気の立つ浴場。
白井は、肩まで湯に浸かり、目を閉じた。
——あたたかい。
張りつめていた体が、
少しずつほどけていく。
呼吸が深くなる。
肩の力が抜ける。
今日一日、向けられた視線や言葉が、
湯の中でやさしく沈んでいった。
——怖がられなかった。
——責められなかった。
それだけで、
胸の奥が静かになる。
湯から上がり、
髪を拭きながら外へ出ると、
夜風が頬に触れた。
「……ちょうどいいな」
小さく呟いた、そのとき。
「おい」
低い声。
振り向くと、
爆豪勝己が、少し離れた場所に立っていた。
「……少し、話せ」
命令みたいで、
でも、いつもより声が低い。
「……うん」
二人は、建物の影を抜けて、
人気のない小道を歩き出した。
⸻
しばらく、無言。
「……昨日の夜」
爆豪が、前を見たまま言う。
「俺の言葉で、お前を追い込んだ」
断定だった。
「止まるやつがいねぇと、突っ込むやつが死ぬ、あれは、
正解じゃなかった」
白井は、立ち止まらずに答える。
「……正解じゃなかったかもしれない」
少し間を置いて、続けた。
「でも、私はあの言葉で、一歩踏み出せた」
爆豪が、ちらりと横を見る。
「……本当か」
「……うん」
白井は、はっきり頷いた。
「怖いって言っても、否定されなかった。、、止まるって言っても、弱いって言われなかった」
白井は爆豪の目を見てはっきり伝える。
「それが、救いだった」
爆豪は、鼻で息を吐いた。
「……なら、いい」
それだけ言って、
先に歩き出す。
振り返らない。
でも、背中は少し軽い。