第4章 同じ時間を過ごす
しばらく経ち、呼吸が、少し落ち着いたころ。
白井は、天井を見つめたまま、ぽつりと言った。
「……個性が、嫌いなんじゃない」
心操は、視線を向ける。
「……怖いだけ」
それは、初めて外に出た言葉だった。
「制御できない瞬間が、一番、怖い。……自分が、自分じゃなくなる感じ」
言葉は少ない。でも、正確だ。
「……今日みたいに」
喉が鳴る。
「止められなかった」
心操は、頷かない。
否定もしない。
ただ、聞く。
「……みんなに見られたく、なかった」
ようやく、視線が心操に向く。
声は、震えていない。でも、覚悟のない正直さが滲んでいる。
心操は、静かに答えた。
「……俺は“見た”けど、“知った”とは思ってない」
白井が、目を瞬かせる。
「個性の形を見ただけだ」
淡々と。
「お前が、どうやってそれと向き合ってるかは、まだ何も聞いてない」
それは、踏み込まない宣言。
「……それでも」
白井は、続けてしまった。
止まらなかった。
「ホワイトウルフは、強くなるほど、理性と引き換えになる」
初めて、
“個性の性質”を言葉にする。
「だから、使うたびに、線を引く」
声は、小さい。
「超えたら、戻れない気がして」
心操は、何も言わない。
ただ、
一言も逃さずに聞いている。
「……今日は」
白井は、目を閉じる。
「少しだけ、超えちゃった。」
その言葉で、
すべてが伝わった。
⸻
しばらく、沈黙。
やがて、心操が言う。
「……ありがとう」
短い一言。
「話してくれて」
白井は、少しだけ驚いた顔をした。
「……まだ謝ってない。」
「違う」
即答だった。
「今のは、“謝る話”じゃない」
心操は、ゆっくりと息を吐いた。
白井の胸の奥が、少しだけ軽くなる。
「……ここまで誰かに話したの、初めて」
心操は、視線を逸らしたまま言う。
「……俺が最初で、いいのか」
問いではない。確認。
白井は、少し考えてから、頷いた。
「……うん」
それで、十分だった。
⸻
保健室の外で、
足音が止まる。
誰かが、様子を窺っている。
でも、入ってこない。
この時間は、二人のものだ。
最初にその言葉を受け取ったのは、
踏み込まないと決めた男だった。