第1章 転入生 白井狼薇という少女
「ねえ……白井ちゃんってさ」
昼休みの教室。
机を囲んでいるのは、女子数人。
麗日お茶子が、声を潜めすぎない程度に言った。
「なんか、不思議じゃない?」
「うん」
芦戸三奈が即座に頷く。
「めっちゃ綺麗なのにさ、全然“そういう空気”出さないよね」
「……確かに」
八百万百が静かに頷く。
「自分を見せることに、あまり興味がないように感じますわ」
視線の先。
白井狼薇は、窓際の席で静かに本を読んでいる。
姿勢は綺麗。
動きも無駄がない。
でも――
“壁”がある。
「拒否ってる感じじゃないのよね」
蛙吹梅雨が、腕を組みながら言う。
「近づいたら、ちゃんと応えてくれる。でも……」
「それ以上、入れてくれない」
八百万が言葉を継ぐ。
誰も否定しなかった。
「嫌われてるわけじゃないって分かるからさ」
お茶子は少し困ったように笑う。
「余計に、どうしたらいいか分かんなくなるよね」
そのとき。
「白井ちゃん」
芦戸が、いつもより少しだけトーンを落として声をかけた。
狼薇は本から顔を上げる。
「今度さ、女子で買い出し行こうよ!
強制じゃないし、気分乗ったらでいいから!」
押さない。
でも、距離は縮めたい。
狼薇は一瞬だけ考えてから答える。
「……時間が合えば」
曖昧。
でも、拒絶ではない。
「よっし!」
芦戸は満足そうに笑った。
「じゃ、それで!」
狼薇は小さく会釈して、また本に視線を戻す。
その横顔を見て、
お茶子は胸の奥が少しだけざわついた。
――綺麗。
――でも、それだけじゃない。
綺麗なのに、
どこか“削ぎ落とされてる”。
「ねえ……」
お茶子がぽつりと言う。
「白井ちゃんってさ、自分のこと、大事にしてると思う?」
その言葉に、空気が止まる。
「……分からないわ」
八百万がゆっくりと答えた。
「でも、守ることには慣れているように見えます」
「守る?」
芦戸が首を傾げる。
「はい。自分を、ではなく……距離を」
それは、誰もが感じていた違和感だった。
少し離れた席で、その様子を見ている人物がいる。
爆豪勝己。
「……」